自伝と私小説
自伝を制作して後世に遺そうする人は、自分のなかにドラマチックなものがないといけないと思っている人が多いですね。
例えば、兵隊として外地に行ったり、大病を患ったり、会社経営で苦労したことなど、波乱万丈の体験があればあるほど、自伝は分厚くなり、読む人の感動を生むと思い込んでいる人がたくさんいます。
でも、こういった考えは一切不要ですね。自分の人生は自分ひとりのものであって、それを淡々と語り、私たちが書き綴る姿勢だけがあればいいのです。平凡がいちばん非凡であり、非凡だと思い込んでいるものが他の人からみれば平凡以外の何ものでありませんから。
自伝と似たジャンルに“私小説”とありますね。私小説は、その人を客観的に眺めて想像しながら、その人の歴史や物語を書き進めることができます。一方、自伝は、自分の過去にあった出来事や事実の底に流れる地下水をくみ上げ、文章というかたちにしていくものです。
私たちが展開している口述自伝“ライフヒストリー良知”は、この自伝の要素にその人の話を客観的に聴き取り書き写す少しばかりの私小説の要素が加わります。何故なら人の記憶には必ず忘却やエラーがつきものだからです。ただし、それを誇大に表現したりすることは一切ありません。真実は決して薄めてはならないのです。
これが、口述自伝の特徴です。私たちは長い間時間をかけてそのノウハウを築いてきたのですよ。