ライフヒストリー良知

9 子孫や後世への贈り物

今を生きるみなさまが過去に体験された出来事を語り、それを私たちライフヒストリアンが責任をもって書き記して、未来に人たちに受け渡します。ひとりひとりの話に耳をすましたライフヒストリアンは、語り手であるみなさまが語りたいと思っていることをまるごと受け止め、語り手を今と歴史の双方に位置付けて書いていく世界があります。ライフヒストリー良知には、このように現在と過去と未来をつないで歴史を考える新しい可能性が秘めているのです。 

私たちライフヒストリアンは、「書くに値する内容がなければ文字を書いてはならない。」ことを肝に銘じています。この教訓は文章を作成するときになおさらよく当てはまります。語るべきこと、書くべきことがあるとき、言葉は強く流れ出てきます。人は誰ひとり例外なく語るべき人生、書くべき人生があります。これこそ、人間のこころと文章とのごく普通の自然な関係にほかなりません。

明治時代の思想家、内村鑑三はその著書のなかで、こう言っています。「最大遺物とは何でしょうか。私が考えるに、誰にも遺すことができ、利益ばかりあって害のないもの。それは“勇ましい高尚なる生涯”です。では勇ましい高尚なる生涯とは何でしょうか、すなわちこの世の中は、失望の世ではなく希望の世であること、悲しみの世ではなく歓びの世であることを生涯に実行して、その生涯を世の中への贈り物として去るということです。」と言います。

また、あのモナリザを描いたレオナルド・ダ・ヴィンチの晩年のエピソードを紹介します。夕暮れの時、バンガローにひとり立っていると、背後から弟子に次のようなことを聞かれたというのです。
「先生は間もなく、次の世界に旅立つと仰っていましたが、その時は何を持っていかれますか?」
ダ・ヴィンチはこう言ったそうです。「何もない。私がここまで築いた財産、作品、屋敷、地位、名誉、お前たち弟子・・・・。あちらの世界に持っていけるものなど何もないのだよ。もしあるとしたら、私がここまで生きてきた思い出とその生きざまだけだよ。」と。

みなさまのライフヒストリーにぜひ残してください。きっとそれが子孫への最大の贈り物になりますから。