ライフヒストリー良知

7-1 遺言書と付言事項

「遺言書」の中に〈口述自伝〉を書き入れることを提案しています。

遺言書」とは、自分自身の想いを相続(遺贈)というかたちで示し、同時にそれを法的に有効なものとするツールです。

「遺言書」を通して、お世話になった人への感謝、家族や自分が大切にしてきたものへの気持ちや願いなどを伝えることが行われています。この文章を「付言事項」と言います。私たちは、皆さまが生きてきた歴史や物語を書き著すなかに、それらを伝えることが大切だと考えています。

もうすぐ、「デジタル遺言」の時代がやってきます。遺言書の付言事項に「デジタル自伝」のURLを記載することで、より詳しく皆さまの気持ちや願いが叶えられるようになります。

以下に事例をご紹介します。

【典型的な例】

1.同居している息子に遺産をすべて遺したい場合

★お母さんとの生活は、私の自叙伝に詳しく書いてあるとおりです。お母さんが亡くなった後、長年、面倒をみてもらった義雄には、同居している不動産をはじめ、全財産を相続させることで報いたいと望んでいます。
★長女の花子は、弟に異議を述べることなく、これからも姉弟仲良く助け合っていってください。

2.夫婦だけで子どもがいない(夫の父母は存命)場合で、妻に全財産を残したい場合

★自分に何かあったとき、裕子が安心して暮らせるように、この遺言書を作成しました。裕子と出会い結婚できて幸せでした。自分史に詳しく書いたように、仕事でもプライベートでもいろんなことがありました。その都度、裕子が助けてくれました。
★これから先、少しでも裕子の人生の支えになればと、私の全財産を裕子に相続させたいと思います。父さんと母さんには、どうか私の遺志を理解して、裕子を支えてあげてください。よろしくお願いします。

3.相続人以外の方に遺産をすべて渡したい場合

★田中美佐さんには、いろいろ面倒をみてもらいました。詳しくは自分史に書きました。見てください。恩返しをしたいと考え、私の財産を贈ることにしました。
★子どもたちには、不動産や金融資産を生前に贈与しているので、どうか美佐さんへの配慮を頼みます。

4.妻が自宅に住み続ける権利(配偶者居住権)を確保する場合

★妻の由紀子との長い結婚生活は苦労も多かったけど、それ以上に楽しいものでした。このことは私の自伝に詳しく書いてあります。由紀子には、先々の心配をすることなく、自宅に住み続けてほしいと考えて、配偶者居住権を活用することにしました。
★佑樹は、お母さんの面倒をちゃんと見てくれると信じていますが、どうか父の思いを受け止めて、お母さんを大切にしてあげてください。

5.二男に農業(農業経営に関するすべての財産)を継がせる場合

★高校卒業後、私を助けて農業経営を続けてくれた正広には、本当に感謝しています。農業をやることのたいへんについて自分史に書いています。ぜひ読んでください。
★ほかの子どもたちの相続分は、正広に比べて少ないですが、代々続く農業を継いでくれる正広のことを考えています。その願いも別途詳しく自分史に書きました。遺留分の請求をしないようにお願いします。

6.長男に墓や仏壇を継がせる(祭祀承継者を指定する)場合

★和夫は、お盆やお彼岸、先祖の命日などには供養を怠らず、墓を守っていってください。
★先祖を供養し、墓を守ることは先祖代々やってきたことです。とてもたいへんなことです。君たちのお母さん、お祖父さんやお祖母さんもそれをされてきました。そのときの様子は私の自伝に書き残しています。ぜひ見てください。
★祭祀に必要な費用として、遺言書名義の○○銀行○○支店の定期預金(口座番号○○○○)を祭祀承継者として和夫に相続させます。

【相続権のない人や団体に寄贈する例】

7.事実婚の相手に譲る場合


★お互いの考え方を尊重して婚姻届は出しませんでしたが、沢子には妻として最後までよく面倒を見てもらいました。このことは私のライフヒストリーに詳しく書いてあります。これまで連れ添ってくれて本当にありがとう。感謝しています。
★先妻の子どもたちには、生前の財産を贈与しているので、どうか沢子への配慮をお願いします。

8.孫に財産を譲る場合

★ほかの孫たちは不満に思うかもしれませんが、大輔は幼いことから私の食事や話し相手などをしてくれました。このことは、私が思いを込めて語り、ライターの方に書き留めてもらっています。それはスマホでも見られるので、ぜひ読んでください。
★絵を描くのが好きな大輔の勉強に役立ててもらいたいと考え、感謝の気持ちを込めて前期の財産を贈ります。

9.財産の一部を寄付する場合

★私が長年苦しんだ心臓病の治療に関する研究が進みました。この苦しみや辛さについて、『私の闘病記』として詳細に書いています。この病気で苦しむ人が一日でも早くいなくなることを願って、些少ですが、私の財産を贈ることにしました。
★子どもたちの相続分が減ってしまいますが、父の思いを尊重するようお願いします。

【条件付きで財産を譲る例】

10.母親の面倒を見ることを条件に相続させる場合


★私が生きてきた歴史はここに書いてあるとおりです。そのときに思ったこと、考えたこと、感じたこともすべて書いています。いろんな出来事があったが、みんなのおかげで幸せな人生を送ることができました。一郎は、これからもお母さんの面倒をしっかり見てくれると信じている。どうか父の思いを受け止めて、お母さん、そして妹や弟と末永く仲良くしてほしい。
★ほかの子どもたちも、お父さんの思いやお母さんの幸せを考えて、遺留分の請求をしないようにお願いします。

11.ペットの世話を条件に財産を譲る場合

★私に大切なペット“タロウ”と過ごした生活はかけがえのないものでした。それは私の自分史のなかに描いています。私が亡くなった後の“タロウ”の幸せを考えると、“タロウ”がよく懐いている久恵さんに面倒を見てもらうことが一番よいと考えました。
★久恵さんにはご負担をおかけしますが、どうか“タロウ”を可愛がってあげてください。

【様々な状況に応じた例】

12.遺産の分割を一定期間禁止する場合


★私が手がけた事業について、『私のライフヒストリー』という題名で詳しく書き著していますが、 この事業の継続と円滑な承継のあめに、必要な手続きを弁護士の前田先生にお願いしました。この手続きのために事業用の資産の分割を5年間禁止します。
★相続人全員が同意すれば分割はできると聞きましたが、父がこの事業に注いだ夢や熱意をどうか尊重してください。このことも詳しく『私のライフヒストリー』のなかに書き残していますのでぜひ読んでください。

13.生前贈与分を相続財産に加えないようにする場合

★長男の義之には、お母さんの面倒や、先祖の供養などいろいろな経済的な負担をかけることになるので、過去の援助を生前贈与として考慮しないことにしました。
★ほかの子どもたちも、お父さんの思いを尊重し、兄弟いつまでも仲良く、助け合って幸せに暮らしてください。
★私の生涯について語り文章にしたものと併せて、この思いや願いをいつでもどこでもスマホで見られるようにしてあるので、何かあるたび、読んでみてください。

14.寄与分についてはっきりさせたい場合

★長女の奈々美は、高校卒業後20年にわたり、家業の青果店を他の従業員の3分の1の給料で手伝いを続け、店を大きくすることに貢献してくれました。このことは詳しく文章にして残しています。ぜひ読んでみてください。
★奈々美にはほんとうに感謝しています。
★前項以外の財産については、子どもたちにそれぞれ法定相続分どおり相続させるので、父の希望を受け入れ、前記財産については、奈々美の寄与分として認めてほしい。

15.相続人を廃除する場合

★和也は、高校生の頃から家出を繰り返し、無断で財産を持ち出すことも数えきれないほどあった。注意しても暴力をふるい、平成○年○月には、遺言者は肋骨を折られるなど全治6か月のけがを負い、入院生活も強いられた。これまでの出来事や、そのときの悔しさや悲しさを私の自分史の中に書き残している。★和也に、これ以上家族に迷惑をかけず、真人間になって生きてほしい。

16.認知症の妻の後見人選定を依頼する場合

★長年、妻の小百合とは幸せな生活を送っていたが、小百合が認知症を診断されてから、いろんな苦労が始まりました。そのときの私の心情を詳しく書き綴っています。
★父の亡き後、一夫と梨沙は協力して、母小百合の療養看護に努めてほしいと願っています。そのための費用は小百合の相続分から支出し、足りない場合は、一夫と梨沙が相続した財産の中から支出してくれるようお願いします。

17.過去に作成した遺言書の一部を撤回・訂正する場合

★妻が亡くなった後、長年、面倒を見てもらった二男の俊太に全財産を相続させることで報いたいと望んでいました。しかし、残念なことに私よりも先に俊太が亡くなりました。
★俊太と俊太の妻清子は、私のことを本当によくしてくれました。そのことをひとつひとつ思い出しながら、文章にして書き残しています。ぜひ読んでみてください。
★従って、私の全財産は俊太の妻清子に譲ります。
★長男の竜也は、父の希望に異議を述べることなく、これからも清子さんと俊太の子どもたちを助けてあげてください。