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ライフサイクル

米国の有名な心理学者にエリク・H・エリクソンという人がいます。「発達心理学」や「ライフサイクル」「アイデンティティ」という言葉を知っている人も多いと思いますが、これらはエリクソンが世に送り出したものですね。

エリクソンは、『人は生まれてから老いに達するまでの人生のライフサイクルの中で、各時期に達成しなければならない「課題」がある。人として生きている限り、成功と失敗による“心の葛藤”が生まれてくる。この葛藤が心理・社会的危機となる。』として、人の一生(ライフサイクル)を 「8つの段階」 に分けました。

※ライフサイクル8段階
1:乳児期    ・・・(基本的信頼VS 不信)
2:幼児期前期    ・・・(自律性VS 恥・疑惑)
3:幼児期後期    ・・・(自主性VS 罪悪感)
4:児童期    ・・・(勤勉性VS 劣等感)
5:思春期・青年期・・・(アイデンテティVS アイデンテティの拡散)
6:成人期  ・・・(親密VS 孤立)
7:壮年期    ・・・(世代性VS 自己陶酔)
8:老年期    ・・・(統合性VS 絶望)

『それぞれの段階では克服すべき「課題」があり、各段階には「肯定的側面 対 否定的側面」 が対(VS)となって設定され、どちらか一方の「否定的な部分」を抱え受け止めながらそれを克服し、「肯定的な部分」を自分自身の心の糧にできた時、それが豊かさの根源となり、次の段階の大きなステージへと導かれる』というのです。

そして、エリクソンは、次のように言います。

『自己同一化(アイデンティティ)とは、自分の持つ意識が他人と同じもの、変わらないもの、固定しているものではなく、葛藤を受け止め乗り越えることによって“統合”していくもので、それぞれの段階に応じた獲得すべき課題を自らの心で上手く乗り越えられているかにより、以降の人生でその人の心の持ち方に大きな影響を及ぼしていく』

『私達は生まれてから、母親の愛情を受けることによって“信頼関係”を築き(乳児期~幼児期)、自己の考え方(価値観)に触れ、やりたいことの興味を育みながら、将来の夢や職業、自分らしさなどを見つけ、“自分”というものを確立していく。(児童期~思春期)。友人を作り、異性と出会い、社会に出て、様々な人々とのコミュニケーションを行いながら「成人期」を迎え、仕事、結婚、子育てなどの経験を通じて統合する時期として「成熟期」を迎える。そして、人生における “英知” を獲得してゆく。』

これが「エリクソンのライフサイクル論」なのですね。また、エリクソンは、

『「老年期」は、家庭の面では子育てが終わったり、仕事の面では退職したりと、それぞれに人生を経てきた中でいよいよ役割の方向転換を迫られる時期。この時期に必要となるのは、“自分の人生の聞き手との出会い”だ』

『この時期は、これまで歩んできた人生の振り返りの時期であり、人生を自らの納得に基づいて歩んでこれたかどうかを見つめ直す時期でもある。』

『人生を歩んできた過程の中では、良いことや悪いこと、上手くいったことや上手くいかなかったことがある。成功したことや失敗したこと、その全てを受け入れていく時期になる。自己を形成していくための人生としてそれらを受け入れられたなら、統合性、すなわち “自己を肯定できる心” を育ませていく事ができる。』

『統合性を受け入れていく過程においては、これまで獲得してきたそれぞれの段階における「同一化」が獲得されてきたかとどうかの度合いによって、自ら納得できうるものになるかのどうかの分かれ道になる。』

『“死”と言うものの受け入れを始める時期に入っていく。今まで歩んできた人生を受け入れていく事が出来たなら、統合性のとれた状態が自らの死をも受け入れる心を育ませていく。』

『しかし、自分の歩んできた人生に満足感が得られない場合には、「統合性 < 絶望」となり、自分の人生に納得できず、後悔しながら「絶望感」を強く心に抱いてしまう。仕事や家庭、或いは個人としての役割について、納得感をもってそれぞれの段階の「課題」を克服してきた部分がある反面、それらが獲得出来ていない場合にどうしても「絶望的」にならざる得ない。』

『「老年期」を衰退といった悲観的な考えで受け入れてゆくのか、それとも、マイナス要因をもちながらも、肯定的な考えで受け入れていくのか。それぞれの段階においての「課題の克服」は、いずれも “他者との関わり合い”を通じて「自分」というものを確立していく。つまり“同一化”することによって、“自分は自分である”いった“考え”や“価値観”を持ち成熟された「英知」が導かれてゆく。』

『老年期」に、これまでの人生が、例え、後悔に満ちた人生であったとしても、「この世に生まれ、この世界に残してきたものがある」と思えるなら、自らの人生を“肯定できる人生”へと心を育ませていくことができる。』

『「これまで獲得できなかった部分を少しづつ補いながら生きていけばいいのだ」と統合性を養いながら内面的に満たされるものとなる。』

『人生の最終段階で「自我の統合性 > 絶望」は、「英知」によって導かれ希望に変わっていく。』

老年期を迎える人々に対する心理的、あるいは社会的支援者としての役割が、その人の人生の聞き手である私たちライフヒストリアンにあります。エリクソンが言うように、自らの人生が「これで良かったんだ」と思えるか、否かは、“自分の人生の聞き手との出会い”によっても大きく左右されるのではないでしょうか。

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