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歴史家司馬遷

歴史上もっとも優れた歴史家は誰でしょうか?

私は、中国漢王朝時代に歴史書『史記』を著した司馬遷だと思っています。

彼の家系は代々「歴代王朝の史官」、つまり周や漢王朝の歴史記録や天文地理を司る歴史官の職務についていました。幼い頃から父親に連れられて中国国内のあちこちを旅し、その土地の古老たちの語りを記録すること、今でいう「聞き書き」を経験し、またその当時の著名な儒学者董仲舒(とうちゅうじょ)からも歴史の本質が何であるか学んでいたようですね。

司馬遷はたいへん頭脳明晰で、周りからも将来を嘱望されていました。漢の武帝時代に宮中で史官としての仕事を全うするかたわら、父親の遺言で中国の有史以来の歴史を著す書『史記』の編纂に着手しました。

ところが、司馬遷は当時の名将李陵をかばったことで武帝の逆鱗に触れ死罪を賜ったのです。歴史家として正義感が人一倍強かった司馬遷の主張があだとなったのです。死罪を免れるにはお金を積むか男の象徴を除去して宦官になるか、どちらかしかありません。お金がなかった司馬遷は、忌み嫌われる腐刑という罪を受けて宦官になり生き恥をさらして生きてきたのですね。

その後の司馬遷の人生は、全身全霊で『史記』の完成だけを使命としてそのために費やされました。

中国には「発憤著書の説」というものがあります。つまり、文学者は平衡を失い不遇の状態のなかで優れた文学の創造をおこなう、或いはこの世で志を失った者が心に結ばれるものに思いを巡らし発憤したものをひたすら文章に託す、というものです。数奇な運命をたどった司馬遷はまさに強い憤りの中、心を奮い起こし大歴史書『史記』を書き著したのですね。

歴史家とは、本当に厳しいものだとつくづく感じます。

中国桂林