色川大吉という作家が、「ある昭和史―自分史の試み」という本を出して以来、自分史を書くというのが静かなブームになってきていますね。自分史という言葉は、この色川さんが名付け親のようです。
色川さんは、自分史や自伝、ライフヒストリーに対する歴史的経緯に触れているので紹介します。
“江戸時代になると、それまで侍の独占物であった印刷物が庶民のものになる。技術的には木版刷りの発達で、「読み売り」とか「枕絵」とか「草双紙」あるいは「読本」という形で、庶民の中に広まる。このころから人々の中にある、自分の表現したいものを形にして、しかも多くの人にそれを見てもらいたいという願望が少しずつ実現されていった。”
“全人口の7割余を占める百姓はどうだったかというと、柳田国男などは、村では「口承文芸」、つまり口から口への言い伝えの文化が主流であるということで、その価値を高く評価し民話や民謡の研究をした。村ではこういう形で文化が伝わっていった。”
“江戸時代の終わりになると、字の書ける人が書けない者の詠んだ句まで書いてあげて、そのうちできのよいものをお寺や神社に奉納したことがわかる。民衆の中にかなり広範囲に自己表現の機運が広がっていたのだ。”
“民衆が自分を表現することと、印刷あるいは出版の歴史を結び付けてみると、面白いことが発見できる。昔から自費出版は、商業出版にのらないものを信念を曲げないで世の中に出す方法だった。これによって自分の存在意義を自分で確認し、さらに人にも認めさせたいということだ。”
庶民が自分のことを表現してきた長い歴史があるが、これが、自分史―自分の人生を自分で表現したライフヒストリーという形で現れてくるのは第二次世界大戦後のことだ。”
また、色川さんは、『自分を表現したことが自費出版という形をとることで、多くの人に勇気と生きがい、希望を与えることができる。日本における自費出版はこれからますます盛んになるだろう。』と言いきっています。
私たちは、色川さんの自分史に対する考え方や信念をしっかり受け継いでいきたいと思っているのです。