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ファミリーヒストリーと行動遺伝学

ファミリーヒストリーと行動遺伝学

NHKの人気番組に〈ファミリーヒストリー〉がありますね。ここでは主演者のご先祖様、ひいおじいちゃんやひいおばあちゃん、祖父母たちの話がよく出てきます。ご先祖様がどんな苦難を乗り越えて生きてきたか、どんな才能を発揮して人生を全うしたか、出演者は感動し涙を流すこともしばしばありますね。

先祖の生きてきた歴史、その才能や資質を知り学ぶことはとても大切なことだと思います。

〈ライフヒストリー良知〉のコンセプトは、“後世の人々にその方の生きてきた歴史を遺す”ことです。私たちは、先祖や本人の知能や性格、自尊心や価値観などを把握し、遺伝として伝えていくことが極めて重要であると考えています。私たちはこれまで事業を展開する上で〈行動遺伝学〉に出会い、それを深く研究してきました。この〈行動遺伝学〉の大家・慶應義塾大学安藤寿康先生のお話を少しします。

◆あらゆる行動や心の働きは遺伝の影響を受ける

知能や性格を含めたあらゆる行動や心の働きは遺伝の影響を受けるというのが〈行動遺伝学の原則〉です。その一方で、「人の能力は生まれつき決まっているのか?」と考えがちになりますが、遺伝の研究を進めていけばいくほど「環境」の大切さが浮かび上がってきます。

まず遺伝に関わる誤解を解かなくてはなりません。一般に「遺伝する」という言葉は、「あなたはお父さんにそっくりね」とか「両親が高学歴だから子どもも頭がよいはずだな」など、親の特徴がそのまま子どもに受け継がれるというニュアンスで使うことが多いと思いますが、行動遺伝学の観点ではこの捉え方は正しくないのです。

◆「蛙の子は蛙」「鳶が鷹を生む」は遺伝的には当たり前のこと

人には2万個以上の遺伝子があり、子どもは両親からランダムに半分ずつを受け取っていますね。その組み合わせは天文学的な数に上り、古今東西、未来永劫、一卵性双生児を除いて完全に同じ遺伝子をもつ人間が生まれることは確率的にあり得ません。一組の夫婦からでも、さまざまな素質をもつ子どもが生まれる可能性があって、兄弟でも素質は大きく異なるのが普通であり、いわゆる「蛙の子は蛙」「鳶が鷹を生む」は、どちらも遺伝的には当たり前のことなのです。

確率的には両親の値を足して2で割ったあたりとなることが多いと言えるのですが、それはあくまでも集団の平均であり、個々のケースを考える場合はあまり参考にならない。つまり、親を見ただけで「子どもの素質はこれくらいだろう」と判断することは誰にもできない。遺伝子にはそうした性質があるため、例えば、「○○(能力や性格など)は60%ほど遺伝の影響を受ける」という場合、「60%は親に似る」のではないことに十分に注意しなければなりません。

◆ひとつの能力に見えても、多くの遺伝子の影響を受けている

こうした遺伝子のしくみを知ると、遺伝に関してさまざまな誤解があることに気づくかもしれません。例えば「この子は母親似だ」などと、子どもは両親のどちらか一方に似ると思っている人がいます。目、鼻、口、眉毛、両目の間の距離、まぶたの厚み……等々、顔は数え切れないほどのパーツの集合体。それぞれのパーツが両親の遺伝の影響を受けるので、全体がどちらか一方だけに似ることはありえない。例えば、特に目の形が特徴的な父親がいるとして、それを受け継いだために全体の印象が引きずられて「父親似」と言われる場合などが多いと推測されています。

また遺伝子が注目されるようになり、「○○遺伝子」といった言葉を耳にする機会が増えてきました。そのため、能力や行動などの各要素がそれぞれ単一の遺伝子で決まるイメージをもつ人もいらっしゃいますが、一部の例外を除き、大半は複数の遺伝子の組み合わせの影響を受けます。

例えば、体重も遺伝の影響を受けることがわかっているけれど、これは「体重遺伝子」があるわけではなく、体質に加え、食べ物の好みや食習慣の作り方、さらにはどれくらいがまんできるかなど、実に多くの遺伝子の働きが関わっている。基本的には知能や性格も同じであり、認知能力は高いが勤勉性が低いために成績が伸びにくいといったことが起こり得るのです。

◆遺伝と環境の影響はそれぞれ半々くらいかな。

行動遺伝学では、どうやって遺伝子の影響を確かめているのかと疑問を持つ人もいるでしょう。まず〈行動遺伝学〉で用いられる「双生児法」という研究法について簡単に説明します。

一卵性双生児は、一つの受精卵から生まれた双子なので、完全に同じ遺伝情報を持っている。一方、二卵性双生児はそれぞれ異なる受精卵から生まれるため、普通の兄弟と同じく、半分程度の遺伝情報を共有している。ともに同じ環境(家庭)で育った場合、二卵性双生児と比べて一卵性双生児の方が似ていたら、余計に似ている分は遺伝の影響によるものと推察できるのです。

この方法を用いて世界中で遺伝の影響に関する膨大な数の研究が積み重ねられてきました。その結果、【あらゆる行動や心の働きは遺伝の影響を受ける】ことがわかってきたのです。どの程度の影響を受けるかは要素によって異なるものの、大雑把に言って「50%」と考えておくといいでしょうね。つまり、遺伝と環境の影響がそれぞれ半々くらいというわけなのです。

この〈行動遺伝学〉のお話はこれからも書き綴りますね。たくさんの先祖から引き継がれてきた〈ファミリーヒストリー〉を知り、それぞれの才能や性格、成功や失敗体験などを理解することによって、自分自身もそうだけど、子どもや孫たち、まだ見ぬ子孫たちの遺伝的な能力を資質を見出し、それが世の中で大いに発揮できる機会をたくさん創り出すことに繋がっていければ、いいですね。