ライフヒストリー良知

ライフヒストリーブログ

自伝的記憶とバンプ

私たちは、自分が誰なのかをよく知っていますよね。これはすべて記憶によって支えられています。逆に記憶の障害を持つ認知症の人は、自分が誰なのかわからなくなったり、これまでの自分史を失ったりします。

私たちには、幼い頃から現在に至るまで自分というものを作り上げてきた歴史や物語があります。いわゆるライフヒストリー、そしてライフストーリーですね。この歴史や物語を成り立たせているものが、『自伝的記憶』と呼ばれる記憶なのです。

何歳の頃にこんなことがあった、その時自分はこんな気持ちになった、その出来事がその後の自分にこんな影響を与えた、というようにこの『自伝的記憶』にはその事実やそれに対する評価がたくさん詰まっているのです。

『自伝的記憶』が引き出されるとき、出来事そのものだけでなく、それにまつわる思いとか考えも同時に引き出されてきます。だから、独り静かに過去を振り返る時、或いは人に自分自身のエピソードを語る時、懐かしい思い出に浸ったり、後悔の念に苛まれたり、悔しい思いを再燃させたり、あるいは誇らしい気分になったりしますね。その思いを書き綴ったり、信頼する人に心の内を吐くと、自分を再発見したり、自己認識を新たにしたりすることが意外と多いものです。

『自伝的記憶』に含まれる諸々のエピソードが、結局のところ、自分らしさを教えてくれるようです。つまり、自分が何者であるかというアイデンティティは、この『自伝的記憶』によって支えられているといってもいいでしょう。

ところで、『自伝的記憶』の研究で有名な認知心理学者にアメリのルービンという人がいます。ルービンさんは自伝的記憶の想起量の年齢分布についての研究ーこれを『ユービンのバンプ研究』と言っていますがーを行ってきた学者さんです。「50歳以上の人は、10代~20代の頃の出来事はそれ以降の出来事よりもよく思い出す」という傾向があることを発見し、これまで一貫して確認してきました。この現象を『レミニッセンス・ピーク」あるいは『バンプ』と呼んでいます。

10代~20代の頃の自伝的記憶がよく思い出される理由として、この時期は自分の生き方を模索し進学や就職、或いは結婚などについて考え決断をしなければならない。その後の人生を大きく方向付けた出来事もいっぱいあるし、友情とか恋愛にまつわるエピソードも多いからなんでしょうね。

ライフヒストリアンとして、『ルービンのバンプ研究』の成果をしっかり認識し把握してかなければならない。顧客の脳の中の抽斗(ひきだし)に仕舞われているこの頃の『自伝的記憶』をいかに引っ張り出してくるか、これが最も大切な命題だからです。