これまで幾度もこのブログでも書いてきましたが、“ライフヒストリー良知”における「聞き書き」の聞く(或いは訊く)というのは、「お客様の記憶を蘇えさせる行為」だと考えています。
高齢者の方々の過去の出来事や体験のなかで鮮明に記憶しているのは、嬉しかったことや苦しく辛かったこと、感情に打ち震えたり、強く訴えたりしたことが多いですね。理性的なことよりも感情体験。
ところで、「記憶の島」という言葉があります。例えば日本列島が沈没したと仮定して、その時3,000m級の山の頂上だけが海面に突き出る。それは一見島のように見える。この突き出た島こそが高齢者の鮮明な記憶なのです。
本来、記憶と言うものは、生きている間ずっと続く大陸であるのですが、年齢が重ねるごとに不要と思われるかなりの部分が海底に沈んでしまいます。「聞き書き」とは、語り手である高齢者から、その沈んでいる部分を聞き出す行為に他なりません。ゆっくり聞いていくと次第に島の数が増え、やがてその島と島とが地続きになっていくのです。
言い方と変えると、「聞き書き」はインタビューを通して、水位を少しづつ下げていくことによって島の数を増やし、日本列島をそのものを浮かび上がらせようとすることなのです。