「まず、自由に話をしてもらう」ことから、ライフヒストリーでの聞き書きが始まります。
その地域に住む古老の語りを聞いて書く「聞き書き」というのは、民俗学における伝承方法のひとつです。自叙伝や自分史を自らが書き後世に遺すことや介護施設で実施されている回想法とはコンセプトが違います。
しかし、私が進めている口述自伝作成“ライフヒストリー良知”は手法とはとても似ていて、良き聴き手の存在によって成果が素晴らしくなり悪くもなります。語り手と聞き手の相性なども関係しますが、語り手の熱意や記憶の正確さなども影響を受けますね。
違うところは、民俗学における「聞き書き」は語り手がその費用を負担するのではなく、聴き手やそこに属する団体や組織、或いは第三者が出すお金で作業が進められていきます。一方、“ライフヒストリー良知”は語り手が自らがお金を出して完成させるものなので、当然のことながら、そこには様々な厳しい要望や要求が入り、時には達成した成果を大きく変更することさえあります。
言語には「読む」「話す」「聞く」「書く」という4つの行動様式がありますが、私たちの仕事としては、「聞く」ことと「書く」ことの比重がとても高い。「聞く」ことには、ただ単に「きく」だけでなく、耳を傾けてていねいに「聴く」こと、くわしい質問をする「訊く」ことが含まれます。また「書く」ことには、ただ単調に「かく」だけでなく、その人の言い回し、口調、方言などをそのまま書き表す「聞き書き言葉」を使わなければなりませんね。
聞くこと、書くことへの極めて高い技術と能力が求められているのです。