「ライフヒストリー良知」の事業を進めるうえで最も大切にすべきことは、話し手から聞いた話をレコーダーに録音し、それを文章に落としていくための表現方法です。
記憶を辿りながら話をするとなると、ややもすれば表現があいまいになったり、前と後の言葉につじつまが合わなくなったりします。その時は、話の内容は変えず、また言い回しや方言なども残しながら、誰が読んでもわかりやすく読めるように仕上げていきます。
国立国語研究所に石黒圭さんという教授がいて、文章表現に関する本をたくさん書いています。これらを参考にしながら聞き書きを進めているのですが、この中に「形容詞を使わない大人の文章表現」という本があってなかなか面白い。
例えば、「いろいろ」「さまざま」を使うとき
(事例1)ホテルを使うときは、さまざまなポイントを検討する必要がある。(事例2)ラーメン店にいくと、いろいろなトッピングが選べる。
これを、(事例1)ホテルを選ぶときは、部屋の広さやベッドのタイプ、朝食が和食か洋食か、さらにはトータルの料金や最寄りの駅からのアクセスなど、さまざまなポイントを検討する必要がある。(事例2)ラーメン店に行くと、チャーシュー、ネギ、メンマ、半熟卵、ノリ、モヤシ、ほうれん草、紅ショウガなど、いろいろなトッピングが選べる。
事例1の場合、さまざまの内容が明確になり文章としての説得力が高まり、また、事例2の場合は、読み手が具体的なイメージを思い浮かべることができ表現に力が生まれますね。
石黒さんは、“書くという作業の最大の意義は「時間をかけて思想を育てることにある」”と言います。まったくその通りです。話し手の追憶や回想の中の考えや思想を、わかりやすく文章に落とし込む方法を作りあげていくことが私の大切な役目だろうと思っていますよ。