自我の統合
介護施設で回想法を実施する機会が増えてきました。回想法は介護の世界ではもう知らない人はいないほど介護予防や認知症予防、また認知症患者の症状緩和手法のひとつとして定着してきましたね。
ところで、回想法と同じような意味でライフレビューという手法があります。文字通り人生を振り返るという意味なのですが、こちらはあまりなじみがありませんね。厳密には多少目的や進め方が違いますが、まあ、そんなに区別する必要はないと思います。
僕が現在推進している口述自伝制作ライフヒストリー良知事業では、どちらか言うとこのライフレビューのコンセプトに近いでしょう。
高齢者が過去を振り返ることの大切さを強調し、老年行動心理学に貢献した人物として有名なのがロバート・バトラー博士です。バトラーさんは人生を回想する“プロセス”こそが、死が近くづくにつれて自然発生的に重要なんだと言います。
発達心理学者にエリク・エリクソン博士という偉い人がいますが、有名なのは人間の発達のプロセスを8段階に分けて、課題と危機について取り上げたことです。そこでは、老年期の発達課題として自我の統合、危機として絶望をあげています。では自我の統合とは何か? 要するに『過去を振り返り、いろんなことがあったとしても自分の人生が良かったと思える心』なんですね。それがないと『絶望』に至る。
高齢者施設のショートステイでは、短期間でたくさんの人たちが入所するため、これまでいろんな疾病、認知症を抱えた方々を見てきました。実際には、老年期の課題としての自我の統合をうまくクリアできている人は決して多くありません。今日生きるのが精いっぱいで、人生を振り返る余裕も明日への希望もないように見受けられます。これが現実の姿です。
老年期を生きるそのような人たちに対して、少しでも良き方向に自我を統合させていくこと、これが僕の使命だと思ってます。