口述自伝制作支援事業“ライフヒストリー良知”を進める上で顧客から聞き書きした内容を文章化しますが、その際の文章表現技術がもっとも重要な項目のひとつであることは言うまでもありません。
昭和9年に谷崎潤一郎が著した「文章読本」以来、川端康成や三島由紀夫、井上ひさしなどの作家が同じように「文章読本」、或いはよく似た題名で自らの文章表現に対する考え方を書いていて、それぞれに特徴あります。その中で私は、「笹まくら」という小説で有名な丸谷才一が書いた「文章読本」がもっとも優れたものだと思っています。
丸谷は、この本の中で「文章上達の秘訣はただひとつしかない。何のことはない名文を読むことだ。名文の極意はただ名文に接し名文に親しむことにつきる。」と言います。
私たちはまったく新しい言葉を創造することはできません。文章は昔からある言葉を組み合わせて新しく書くことであって、言葉づかいを歴史から継承することが宿命なのです。その意味で、名分を読むというのはまったくその通りなのですね。
聞き書きによって顧客である話者の話をレコーダーに録音し、それを起こし文章化する。できる限り話し言葉をそのまま書き言葉として著していく。これが私が主張するいわば「聞き書き言葉」の命題です。しかし現実としてこの時話者の話者の言葉一言一句完璧に文章にすることはできない。どこかで文章を紡ぎだしていかざるを得ません。その時にこそ、これまで培われた文章表現の技術が必要になってくるのですね。
“日々文章表現力を磨き上げていく”、これがライフヒストリー良知の事業が発展させていくためのとても大切なコンセプトなのです。