『失敗学のすすめ』という本は、東京大学工学部の畑村洋太郎教授が失敗に対する考え方をまとめたもので、16,7年ほど前にベストセラーなりましたね。何かを始めようとするとき、多くの人はまず成功から学ぼうとします。成功体験者を話を聞いたり書かれた本を読んだりします。人はすでに成功しているものを真似することでうまくいくと思いがちです。しかし現実はなかなかうまくいかない。想定外のことが起こるとものまねではそれに対処できないでのです。
人が新しいことをやろうとするとき、その結果の多くは失敗に終わります。しかし、その失敗事態は悪いことではなく、その経験の中で見たことや感じたこと、考えたことは必ず役にたちます。問題は失敗に懲りて挑戦自体をやめてしまうことです。そのことで確かにその人は失敗することもなくなるけれど、同時に進歩することや成長するするチャンスは失われていきます。
「失敗情報は隠れたがる」と畑村教授は言います。しかし人が知りたいのは、失敗した人がその時どんなことを考え、どんな気持ちでいたのかなのです。この中には外部の人から伺い知れないような真の失敗の原因が隠されていると言うことなのです。そして当事者に自由な気持ちで失敗を語らせることは、失敗情報を伝える上でたいへん重要なポイントになります。
自ら「自分史」や「自叙伝」を書く場合、この失敗した体験をあからさまに書く人はそれほど多くありません。失敗の体験を思い出すとき、やはり恥ずかしさや苦々しさが生じてくるので、どうしてもオブラートで包み込んだような表現しか出てこないのです。しかし、“後世に自分の生きざまを伝える”というライフヒストリー良知のコンセプトからすれば、この失敗の経験こそがもっとも重要な後世に遺すべきことがらであると考えているのです。
従って、私たちがお客様にインタビューするときは、失敗の経験をしっかり語って頂きそれを文章に落とし込んで遺していきます。そこに口述自伝のある意味、良さとかすばらしさがあると思っています。
畑村教授は「失敗は恥や減点の対象ではない。失敗を肯定的に利用するか否かで個人の成長も組織の発展も大きく変わってくるのだ。まさに失敗は成功の母である。」と訴えます。
ライフヒストリー良知もまた、失敗を肯定的に捉え、失敗学を前向きに進めていこうと考えているのです。