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良知の知識と智慧

日本語文化 / 智慧

日本語文化ー文章読本の智慧

私が知る限り、これまで谷崎潤一郎・三島由紀夫・川端康成・中村真一郎・井上ひさし・丸谷才一が「文章読本」なる、日本語の文章の書き方や味わい方の手引きを書いています。

このうち、井上ひさしと丸谷才一の読本が優れていると個人的に思っていて、この中から智慧になるものを抜き出してみます。

◆『文章読本』丸谷才一

しかし文章上達の秘訣はただ一つしかない。あるいは、そのただ一つが要諦であって他はことごとく枝葉末節にすぎない。当然わたしはまづ肝心の一事について論じようとする。とものものしく構へたあとで、秘訣とは何のことはない名文を読むことだと言えば、人は拍子抜けして、馬鹿にするなとつぶやくかもしれない。そんな迂遠な話では困ると嘆く向きもあろう。だがわたしは大まじめだし、迂遠であらうとなからうと、これしか道はないのである。

◆自家製『文章読本』井上ひさし

ヒトが言語を獲得した瞬間にはじまり、過去から現代を経て未来へと繋がって行く途方もない長い連鎖こそ伝統であり、わたしたちはそのうちの一環である。ひとつひとつの言葉の由緒をたずねて吟味し、名文をよく読み、それらの言葉の絶妙な組み合わせ法や美しい音の響き具合を会得し、その上でなんとかましな文章を綴ろうと努力するとき、わたしたちは奇跡をおこすことができるかもしれない。その奇跡こそは新たな名文である。

新たな名文は古典のなかに迎えられ、次代へと引き継がれてゆくだろう。すなわち、いま、よい文章を綴る作業は過去と未来をしっかり結び合わせる仕事にほかならない。もっと言えば文章を綴ることで、わたしたちは歴史に参加するのである。

せいぜい生きても7,80年の、ちっぽけな生物ヒトが永遠でありたいと祈願して創り出したものが言語であり、その言語を整理して書き残した文章であった。わたしたちの読書行為の底には「過去とつながりたい」という願いがある。そして文章を綴ろうとするときには「未来へつながりたい」という想いがあるのである。

『よくわかる〈文章表現の技術〉』著者石黒圭

Ⅰ表現・表記編

1.読点の打ち方

(1)読点をどこに打つか

長さ派ー文やそのなかの要素の長さによって読点を打つかどうかを決める。

意味派ー文の中の意味的なつながりを考慮して読点を打つかどうかを決める。

分かち書き派ーひらがなやカタカナ、漢字の視覚的なつながりを切断し、文節をはっきりさせることを第一に考える。

構造派ー文の中のかかりうけの関係や、文内部の構造を明確にすることを重視する。

(2)「構造派」の考えを中心にした読点の打ち方

かかりうけ明示の読点ー直後の要素にかからず、遠い要素(特に文末の述語)にかかることを示す。

構造明示の読点ー文のより中心的な構造、いわば文の幹になる部分を示す。

(3)形態面で見た場合

運用中止法接続助詞が「が」のあとには読点が打たれやすい。

同じ助詞が続くときの先に来る助詞のあとに打たれやすい。

(4)強調の読点ー多くの人が読点を打つ箇所でないところに敢えて読点を打ち、その要素を強調する。

日本語の読点は、正書法としてまだまだ確立していない。しかし①誰でも読点を打つところというのはありその部分は文法化できる。一方、②人によって判断が揺れるところがありその人の文体に大きな関りがある。さらに③一部の人しか打たないところは、強調のための読点である。これは筆者の裁量によって変わりうる修辞的な部分。またまったく打たれないところというものがあり、そうした不要なところに打つと、文の構造がわかりにくくなったり、誤解を招いたりすることになる。

2.語順

(1)基本語順ーいつ・どこで・誰が・誰に・何を・どうしたと目される語順。

(2)基本語順に影響を及ぼす要因

係助詞「は」-主題を表す「は」を伴う要素は文頭、またはその近くに出る傾向がある。

要素の長さー長い要素は文頭、またはその近くに出る傾向がある。

強調ー強調する要素は文頭またはその近くに出るか、あるいは、その反対に述語の直前に下がる傾向がある。

先行文脈ーこれに含まれる要素と関係深い要素は、文頭、またはその近くに出る傾向がある。

(3)語順を動かせない何らかの事情があるとき、読点をうまく使えば、語順を換えると同等の効果を上げることができる

3.かなと漢字

(1)かなと漢字を書き分ける基準として、①漢字にできるものはすべて漢字で書く。②和語はひらがなで、漢語は漢字で書く。③実質語は漢字で、機能語はひらがなで書く、という四つの基準がある。

(2)和語はひらがなで、漢語は漢字で書くと言う基準は、語の出自から考えて理にかなっている。訓読みをなくすことで日本語の国際化に貢献できる可能性がある。

(3)実質語は漢字で、機能語はひらがなで書くと言う基準は、実質的な意味を担っている名詞・動詞・形容詞などが表意(表現)文字として目に飛び込んでくるため、速読がしやすく、忙しい現代社会にかなった表記方法である

(4)どれを漢字にするかでなく、どの漢字を当てるかということも重要なことである。漢字はひらがなに比べ、意味を制限する力の強い文字であり、それを利用すればさまざまな語感を伝えることができる。反対に、意味を限定したくないときは、ひらがなを使うことで、そのことばの持つ意味の多様性、あいまい性を保持することができる。

4.省略と表出

(1)省略という目に見えないものを考える際には、省略された要素の復元可能性を考えるという方法が有力である。

(2)主語の省略は、復元可能性という観点から、省略されている要素がその文だけで復元できるもの、もう一つは省略されている要素が、前後の文脈がないと復元できないものに分かれる。

(3)その文だけで省略されている要素が復元できる省略は、その省略されている要素の性格から、総称的な省略、話し手の省略、聞き手の省略、類似要素の省略、状況の省略の五つに分けることができる。

(4)前後の文脈がないと省略されている要素が復元できない省略は、一度出てきた要素と同じ要素は省略できるというのが原則だが、

➀一度出てきた要素と同じと言っても、その同一性・類似性の程度が低いと省略しにくくなる。

②前に出てきた要素が直前の文にはなく、それより前の離れた文にあると省略しにくくなる。

➂復元するのに複数の候補があると省略しにくくなる。

④前の文と当該の文との意味的な距離が遠いほど省略しにくくなる。

(5)特に④に関連して、前の主語と共通している主語を省略しない場合、そこから新たな文脈展開が始まるということを示す効果がある。また省略することで文間の意味的な距離が近いことを示し、主語が省略された文がすでに出てきた文の主語を共有することで文章のまとまりを生み出す機能も省略にはある。

5.表現選択

(1)ことば選びのセンスを高めるために必要なことは、頭のなかに第一に浮かんだものをそのまま書かず、書く前にいくつかの候補を考え、その中から一番良いものを選ぶ習慣をつける。

(2)ことば選びの候補を考えるとき参考になるのは類義語、すなわち上位語・下位語・同義語・対義語や、内包・外包、派生語といった考え方である。

(3)いくつかの表現選択の候補のなかからもっともよい表現を選ぶときに重要になるのが、「整合性」「個性」という二つの観点である。

(4)「整合性」①文内の整合性ー選んだ表現が1文のなかに意味的にも、文法的にもしっくりはまるか。②文脈の整合性ー選んだ表現が前後の文脈にしっくりはなるか、③現実との整合性ー選んだ表現によって構成される文の意味が現実世界に適合するか、がある。

(5)「個性」①一工夫のひねりー誰もが考えつく直接的な表現に工夫を加える。②発想の独創性ーその人しか思いつかないもの。

(6)優れた「個性」であっても、「整合性」を欠いた「個性」は表現としての説得力を欠く。一方、「整合性」のある表現でも「個性」がなければありきたりの表現になってしまう。この両方が揃っていて初めて優れた表現になる条件が整う。

6.話しことばと書きことば

(1)ことばには、場に合わせて選択しなければならない、言語使用域と呼ばれるバリエーションがある。日本語の場合、特に話しことばか書きことばかという言語使用域が問題になる。

(2)話しことばと書きことばは二つにはっきりと分かれるようなものではなく、話しことばらしさ、書きことばらしさといった段階性を有する。

(3)すべてを書きことばらしい表現にすると、かえって不自然になることもあるが、そうした書きことばへの変換が自在にできるようになれば、その場に応じた文体に調整することができる。

(4)話しことばと書きことばの文体の違いは、助詞、接続詞、副詞など、文法的な要素に現れやすい。一方、名詞や動詞などの語彙的な要素、とくに日常生活に密着した身近な語彙は書きことばへの変換が見落とされがちなので注意が必要だ。

7.弱い判断

(1)日本語では、話し手の判断を表す表現が文末に現れる。その話し手の判断は、大きく真偽的判断態度的判断に分けられる。

(2)真偽的判断を表す表現は、事実を表す文につけられず、断定を表す文を断定を弱めるためにつけられる。その表現をここでは弱い判断を示す表現と呼ぶ。

(3)弱い判断を表す表現をつけるのは以下の四つの場合である。

意見が分かれそうな内容のとき

筆者が重要と考える主張のとき

前後の文脈との関連で必要なとき

④読者と問題意識の共有を図りたいとき

(4)弱い判断の長所は、筆者と違う意見を持っている読者を抵抗なく文章に引き入れることができるところにある。弱い判断の短所は筆者の主張が責任感に欠け、あいまいなものになるところにある。

(5)弱い判断は、事実をきちんと調査し、また論理的な思考を充分におこなうことで減らすことができ、減らしたほうが文章の説得力が上がる。また、使う必要があるときでも、その判断の根拠をあわせて示すことで読者が納得できる文章になる。

8.事実と意見

(1)レポート・論文では筆者の意見と他者の意見をきちんと区別して示す必要がある。

(2)大きく分けると、事実には「自分の事実」「他者の事実」「一般的な事実」があり、意見にも「自分の意見」「他者の意見」「一般的な意見」がある。「自分の事実」「自分の意見」はオリジナルな知見として、「他者の事実」と「他者の意見」は引用として表現される。

(3)事実のうち、「自分の事実」は無標で、「他者の事実」は「によれば」「によると」「終止形+そうだ」「という」などの形式で、「一般的な事実」は無標で表される。

(4)意見(=判断)のうち、「自分の意見」は「思う」「考える」「思われる」「考えられる」や無標(断定の場合)や「らしい」「ようだ」のような各種モダリティ形式で、「他者の意見」」は「思っている」「考えている」「言っている」「述べている」なども形式で、「一般的な意見」は「思われている」「考えられている」「言われている」などの形式で表される。

(5)引用の場合、情報源となった引用元。(出典など)とどこからどこまで引用かという引用の範囲を読者にわかりやすく示す義務がある。

9.のだ

(1)「のだ」は基本的にほとんどの文につけられるが、つけすぎても、まったくつけなくても、日本語として不自然になる。

(2)「のだ」の基本的な機能は、話し手または聞き手の既有の認識が不充分なものから充分なものになったことを示す。不充分な認識には、必要な情報が足りないという空白のある認識と、正しくない情報が入っているという認識がある。

(3)「のだ」には、先行文脈の内容をもとめて、そこまでで充分な内容になったということを示す働きがある。そのため、「のだ」は段落の終わるの文につきやすく、また、文章全体を大きな内容のまとまりに区切っていくときに使われやすい。

(4)「のだ」には、「のだ」についた文を大切な情報として提示し、読者に注意を喚起する働きがある。そのたzめ、「のだ」は筆者の中心的な主張につきやすい。

(5)「のだ」は言い換えや逆説にもつきやすいが、その場合、局所的に「のだ」をつけすぎて、文章全体の内容をまとまりを損ねないようにする必要がある。

(6)「のだ」のバリエーションのうち、「のだろう」「のではない」「のか」のような特殊なものは構造上の必要性によってつけるかどうかが決まってくるため、「のだ」「のである」とは同列には考えにくい部分もある。

10.接続詞

(1)接続詞の使い方の難しさには、➀筆者の立場を離れ、読者の立場に立って接続詞を選ぶことの難しさ、②接続詞の倫理が筆者の主体的な選択によって決まる難しさ、③接続詞を入れる場所や使う頻度の難しさがある。

(2)①に関連して、接続詞は読者のためのものなので、推敲段階で、読者の立場に立って、読者の理解に配慮した接続詞の調整を行う必要がある。

(3)②に関連して、接続詞は、文脈の中で一義的、自動的に決まるものではなく、筆者の主体的な選択によって決まるものであり、その選択には筆者の選んだ倫理やその背後にある筆者の事態認識の姿勢が反映される。

(4)③に関連して、接続詞は何を選ぶかよりも、どこに入れるかが重要となることが多い。接続詞には範囲指定機能があって、どの使用位置によって線条的な構造を持つ文章を立体的に見せる働きがあるからである。

11.文の長さ

(1)文は単純に短いほうがよいとはいえず、前後の文脈や状況によって異なる。

(2)1文にまとめにくい2文、反対に、2文に分けにくい1文というのがある。前者は、2文の関係が近すぎる言い換えのときや、反対に遠すぎる転換のとき、文末のモダリティ形式の相性が悪いときである。後者は、付帯状況や手段など、付属節が述語としての独立性に欠けるものや、条件や目的など、従属性の成立に依存して、主文が設立しているものである。

(3)1文にまとめることのメリットは、①重要な述語のみを文体全体の述語にできるので、読者が論点を絞りやすくなる、②繰り返す述語を省略できるなど、表現の冗長性を下げることができる、③文章の流れを切ることなく、一連の出来事を一続きのものとして表現できる、④同一の階層にある述語を1文のなかに取り込むことで、前後の文脈の階層性を明らかにできる、という4点にまとめられる。

(4)複数の文に分けることのメリットは、➀1文のなかに入れる述語を減らし、文の構造を単純にすることができる、②接続助詞などでつなぐ必要がないため、文の関係を明示することが避けられる、③大切な情報を後出しにすることで、読者にその情報に注目を向けさせられる、④短い文の繰り返しで文章のリズムを作り出すことができる、という4点にまとめられる。

12.段落

(1)段落は、読点と同様、ルールとして確立した規則性と、書き手の裁量に委ねられた恣意性の両面を有している。

(2)日本の段落は読解のさいに長い文章を短く区切るものであり、欧米のパラグラフは作文のさいに肉付けしていくものと考えられている。

(3)段落は、形式上の改行と内容上のまとまりが一致しないため、「改行+1字下げ」によって表される形式段落と、内容上のまとまり重視する意味段落(「文段」「段」)に区別されることがある。

(4)段落を区切る方法には、文章の「構え」を重視して「中心文の統括機能を基準に区切る」方法、文章の「流れ」を重視して「文間の意味的な距離を基準に区切る」方法、「構え」と「流れ」のバランスを取って「話題や場面を基準に区切る」方法、紙面の読みやすさを考慮して「長さを基準に区切る」方法の4つがある。現実には、この4つの方法を組み合わせて段落分けが行われている。

(5)段落分けは、まずは文章全体の構成を視野に入れて大きく区分し、さらにそれを必要に応じて細分化するほうがうまくいくことが多い。

(6)段落分けに迷ったときは、それぞれの段落に小さなタイトルが付けられるように段落分けするとよい。タイトルを付けることで、その段落が話題や場面のどのレベルで段落分けしているかなど、段落分けの基準が明確になる。

Ⅱ.文章構成編

1.書き出し

(1)書き出しは、初対面の人との第一印象に相当し、情報過多の現代社会にあって、自分の書いた文章を最後まで読んでもらうためにもっとも工夫を要するところである。

(2)魅力的な書き出しに必要なポイントは、①情報の共有、②情報の空白、③共感できる内容、④意外性のある内容の4条件を満たすことである。

(3)情報の共有がないと書かれている内容が理解されない一方、情報の空白がないと続きを読んでもらえなくなる。①本題に直結し、②ある程度方向性が絞られた、③適度な情報の空白があることが望まれる。

(4)共感できるような内容にするためには、書く題材を肯定的かつ積極的に描くよう努める一方、否定的に描く場合でも、異なる立場にある人が不愉快に感じる表現は避ける必要がある。また、具体的で印象的な場面を盛り込めると好感度を持ち上げられる。

(5)意外性のある内容にするためには、私たちの常識に反する内容や、私たちが見過ごしがちな興味深い内容を盛り込むとよい。誰もが書きそうなありふれた内容は避け、ありふれた内容を書くときでも、ほかの人が思いつかない見方を示す必要がある。

2.読後感

(1)文章の終わり方には、大きく分けると以下のようなタイプがある。

要旨型:文章の終わりでそれまで述べてきた内容をまとめる結末で、読者の知らない内容を理解してもらうことを目的とする説明の文章に見られる。筆者の結論を明示して終わる、終わりらしい終わりだが、意外性に欠けるきらいがある。

表明型:文章の終わりで筆者の考えを表明する結末で、読者に筆者の考え方を理解し支持してもらうことを目的とする説得の文章に見られる。筆者の主張が誤解なく読者に伝わるやはり終わりらしい終わりだが、押しつけがましいと受け取られる可能性もある。

心理型:文章の終わりで筆者の心情を開示する結末で、「要旨型」「表明型」が倫理をベースにするのに対し、「心理型」は心理(感情)をベースにする。インパクトがあり、感覚に訴える力があるが、自己完結してしまいがちで、ひとりよがりな印象を与えることもある。

間接型:文章の終わりで結論に結びつく内容を間接的に提示する結末で、「要旨型」「表明型」「心理型」の直接的な結末と対立する。成功すれば読者の想像力を喚起する印象的な結末になるが、失敗すると何が言いたのかわからない結末になる危険性もある。

省略型:結論が描かれたあとに、さらに何か別の内容をつけ加える結末である。余韻のある読後感をかもし出せる反面、読み終えた読者に何か物足りない感じを与える可能性もある。

⑥付加型:結論が描かれた後に、さらに何か別の内容をつけ加える結末である。違和感をあえて投じるような結末で、深読みさせるきっかけを作れるが、蛇足になったり言い訳めいたりするおそれもある。

(2)(1)を整理し直し、細分化すると以下のようになる。

◇終わりを直接的に書く:直接型

★終わりを論理的に書く:論理型

▽終わりを説明として書く:要旨型

・結論をまとめて示す:断定型①、のだ型②

・結論をゆるめて示す:推量型③、推定型

・結論に疑問を投げかける:疑問型⑤

・結論を一般化する:一般化⑥

▽終わりを主張として書く:表明型

・結論を実現希望の形で示す:決意表明型⑦

・結論を実現要求の形で示す:義務表明型⑧

★終わりを心理的に書く:心理型

・結論を感覚的に示す:内面表出型⑨

・結論を感情的に示す:感情表出型⑩

・結論の背後にある筆者の事情を示す:舞台裏表出型⑪

◇終わりを間接的に書く:間接型

・結論を描写に込めて示す:描写型⑫

・結論を象徴的に示す:象徴型⑬

◇終わりを書かない:省略型

・結論がないことを示す:非終了型⑭

◇終わりに付け加えて書く:付加型

・結論にさらに別の内容を加える:付け足し型⑮

3・冒頭と結末

(1)冒頭と結末を呼応させることは、文章全体のまとまりを感じさせ、その文章の構成と内容を読者に最後にもう一度かみしめさせることになり、有効な文章構成の一つである。

(2)冒頭と結末の呼応は一面的なものではなく、複数の文脈が複雑に絡み合ったものである。また、冒頭と結末のあいだの途中経過にも対応関係がみられる

(3)対応関係は、似たような文型、似たような形式の語彙、似たような概念の語彙によって保証される。似た部分が多いほど、強い対応関係が意識される。

(4)対応関係が生じた場合、離れた位置にある文を同じまたは一連の出来事を示すものとして認識させたり、対応する表現に挟まれた部分を一つの意味のまとまりとして意識させたりする効果がある。

4.タイトル

(1)情報過多の社会にあっては、タイトルは本文を読んでもらうために、本文の内容と同じくらい重要なものである。

(2)タイトルは文章のジャンルによって付け方が異なる。情報を伝えることを目的とした実用的な文章にあっては、タイトルは本文の究極の要約である必要がある。一方、読んで楽しんでもらうことを目的とした娯楽的な文章では、タイトルは作品の雰囲気を伝え、そのなかにサスペンスを含んだものである必要がある。

(3)実用的な文章のうち、用件を伝える電子メールのような対人的な配慮を必要とするものについては、「内容が具体的にわかること」「差出人が特定できること」「表現が失礼にならないこと」を3条件を満たす必要がある。

(4)実用的な文章のうち、新聞記事のような事実を伝えることを主眼とした文章では、「いつ」「どこで」「だれが」「何を」「どうした」という5つの要素を中心に、「事件性が高い」「事実性が高い」「事件の中核に近い」「イメージが湧きやすい」「身近に感じられる」重要な情報を入れ、「類推が効く」、「背景知識からわかる」「常識的な」「不確かな」不要な情報を除いて組み立てる必要がある。

(5)実用的な文章のうち、コラムや論文のような何らかの主張を伝える文章では、その主張が明確になるように、文章の結論を抽出して示す必要がある。その際、その結論と論理的に示す方法、抽象的に示す方法、文章全体のトピックスと関連付けながら具体的に示す方法などがある。

(6)娯楽的な文章のうち、ショートショートのようなオチのある文章では、読んでみたくなるような謎を秘めた魅力的なタイトルで、その文章が読み終わったとき、そのタイトルの意味が初めてよく理解できるというタイトルが理想的である。

5.読者への配慮

(1)文章を書くという行為は、「誰が」「誰に」「何のために」「何を選んで」「どう書くか」という5点から考える必要がある。

(2)メールは、手紙と同様、「私」と「あなた」の1対1の関係で成立する文章なので、「誰が」「誰に」書いているのかを意識することが何よりも重要になる。

(3)メールの場合、相手が目の前におらず、また、簡単に送ることができるので、内容をあまり吟味せずに送ってしまうことが多い。メールを送る前に、相手が自分のメールを読んでも不快感を覚えないか、用件を適切な順序で簡潔にもれなく伝えているか、表現は自然で誤りがないかということを、読者の立場に立ってチェックする習慣をつけることが重要である。

(4)初対面の相手にメールを送る際には、自分がどのような人物であり、相手にどのような関心を抱いているかを明示することが重要である、つまり、自己を知り、相手を知ることが重要になる。

6.説明

(1)提供する情報については、

情報の量:重要な情報が抜けておらず、なおかつ簡潔な情報。

情報の質:説明する目的にかなった、関連性の高い情報。

情報の正確さ:間違いやあいまいさのない情報。

この3点は説明の文章において特に重要である。

7.描写

(1)言語による描写は、ことばという1次元の記号の列によって書くもので、表現の選択と配列をつねに伴い、「見たとおりをそのまま書く」ことは不可能である。

(2)書く題材を同じものにしても、筆者の個性によって、解釈や文体が異なってくるので、誰が書いても同じ文章になることはない。

(3)書く題材を統一すると、無生物よりも人間の主語を据えたり、動いてないものを先に導入して、次にそれとの位置関係で動きのあるものを導入したりするなど、表現の選択や提示の順序には一定の傾向が存在する。

(4)描写を中心とした文章は、作品のイメージや臨場感を伝えるのに適しているが、事態の単なる羅列で話のポイントがぼやけたり、事態間の関係に整合性がつかなかったりする場合がある。

(5)説明を中心とした文章では、話の大枠やポイントを整理して伝えるのに適しているが、臨場感に欠け、作品の雰囲気が伝わってこないきらいがある。

8.問題提議文

(1)文章は、複数の文からなり(文章の単位性)、その複数の文が相互に意味的に結びついたものである(文章の文脈性)。そして、その複数の文が内容上一つのものとしてまとめられ(文章の全体性)、そのまとめ上げられた内容が実際の場面のなかで活きたことばとしてさまざまな機能を発揮するものである(文章の場面性)と定義される。

(2)「文章の単位性」「文章の文脈性」「文章の全体性」「文章の場面性」という四つの条件のなかでも、「文章の全体性」の定義が難しいが、文章の全体性を保証するひとつの方法として「文章全体をまとめる問」を想定するという方法がある。

(3)文章全体の問を表す文とは、「どのように~なのか」「どうして~なのだろうか」といった疑問語疑問文、「本当に~なのか」「はたして~のだろうか」といったYes-No疑問文で表されるのが典型である。

(4)文章理解というものを問題解決過程としてとらえると、文章は大小さまざまな問とその答えから構成されていることがわかる。問を意識しつつ文章を読むと、文章の重層構造がよくわかり、理解が深まる一方、問を意識しつつ文章を書くと、内容に一貫性のある、説得力のある文章が書けるようになる。

9.謎解き型

(1)文章には、大ざっぱに分類すると、以下のようなタイプに分かれる。

描写文:ある場面を誰かの視点を通して描写する。

物語文:その場にいるかのような臨場感を持って描く。小説、童話など

報告文:書いている現在とそのときの場面を分離して描く。報道、記録など

論説文:筆者の考え方や立場を論理的に示す

説明文:読者が知らない概念をわかりやすく説明する。概説、教科書など

説得文:筆者が自身の意見を根拠とともに表明する。論文、社説など

(2)説明文において、読者を惹きつける方法として、後続文の内容を予測させることを繰り返す、謎解き型の文章で書く方法がある。謎解き型の文章は、後続の展開を想像しながら読め、読者が主体的に文章に関われるようになるので、読者を自然に文章世界に引き込む力がある。

(3)謎解き型の文章を書くコツは、連用修飾部や連帯修飾部を後続文に転出させることなく、注意をひく修飾語をつけるなどして転出させた部分を焦点化することである。謎解き型の文章を書く際には、読者の理解の軌跡を考慮して書くことが何よりも重要である。

10.伏線

(1)前講の謎解き型の文章とは異なり、読者の予測能力を発揮させないようにして謎を深め、それを結末で明らかにするタイプの文章があるが、そうしたタイプの文章では伏線というものが重要になる。

(2)伏線は、冒頭から順に読んでいったときの文脈では、無標、つまり特別な意味を持つものとしては読者に意識されないものでなければならないが、結末を知ったあとに形成される新しい文脈では、有標、つまり特別な意味を付加されたものとして読者に強く意識されるものとして見えてくるものでなければならない。

(3)優れた伏遷とは、結末を簡単に予測させない一方、結末を読んだとき、それまで隠されていた伏線が一連のつながりのあるものとして見えてくるようなものである。

11.譲歩

(1)筆者が自身の意見を根拠とともに表明する説得文においては、筆者と異なる立場の読者に抵抗なく読んでもらえるかどうかが説得のカギになる。その際、立場の異なる読者に配慮して、筆者が自らの立場の問題点を指摘したり、対立する立場に理解を示したりする譲歩と呼ばれる姿勢が重要になる。

(2)譲歩には、自らの主張に条件を付けたり部分的に制限したりする内容面での譲歩と、筆者が自らの立場の限界を指摘したり、対立する立場を部分的に認めたりする表現面での譲歩とがある。また、反対の立場の存在を認め、それを紹介するにとどめる弱い譲歩がある。

(3)譲歩の表現には、異なる立場の読者に筆者の主張を抵抗なく受け入れてもらえるという以前に、何が筆者の立場で、何が筆者と対立する立場なのかを、読者に整理して理解させたり予告したりする理解上の効果もある。

(4)逆説の接続詞が多い文章は文脈が曲がりくねっていて理解しにくいと一般的に言われるが、逆説の接続詞の使い方に一貫性のない文章が理解しにくいのである。逆説の接続詞のまえは筆者と対立する立場の内容(筆者が譲歩した内容)、逆説の接続詞のあとは筆者自身の主張という「譲歩ー主張」のパターンで一貫させれば読みにくくなることはない。

12.要約

(1)要約は、表現者のがわでは、文章のポイントを的確に理解し、それを簡潔に表現するという文章トレーニングの方法として使える。一方、理解者のがわでは、本文を読む前に本文が読む価値のあるものかどうか判断する材料として使える。

(2)要約には、論説文のポイントをまとめ、読者の短い時間で内容を理解させる要旨、ストーリー性のある物語文において、話の続きを読むための情報を与えるあらすじがある。そのほか、タイトルやキーワードも要約に似た働きをする。

(3)要約には、長い本文の無駄な部分を省き、表現を刈り込んで要約文を構成する縮約法と、長い本文のなhかから筆者の主張を取り出し、それに必要な情報を加えて要約文を組み立てる肉付け法がある。

(4)縮約法は「情報の選別」→「連続性の調整」→「字数の短縮」という手順を踏んで行う。情報の選別では「一般的な内容を表す文」「ほかの文をまとめる文」「前提となる状況を設定する文」「評価や

主張を含む文」を優先する。縮約法は要約文が原文の構造や表現に沿ったものになるため、堅実であるという利点はあるが、原文に引きずられてしまい、要約文だけで読んだ場合、理解しにくい文章になる可能性がある。

(5)肉付け法は、「中核情報の抽出」→「重要情報の付加」→「要約文の再構成」という手順を踏む。肉付け法の場合、中核情報の抽出が難しいのが難点であるが、原文に縛られず、要約者本来の文章に近い構造や表現で要約文が作成できるので、要約文だけで充分理解できる文章が書ける。

Ⅲ.文法法

1.文末の予告

(1)日本語は最後まで読まないとわからないと言われる。しかし、実際には、文のはじめや途中であっても、さまざまな指標を手がかりに、読み手は頭のなかの文型に関する知識(メンタルモデル)を駆使して、文末の述語の姿をある程度絞って理解しているものである。

(2)読者にやさしい、理解しやすい文を書くコツは、文末を予測しやすいように、文末の姿予告する指標を早めに提示することである。

(3)文末を予告する典型的指標には、接続詞、接続助詞、陳述副詞の三つがある。

(4)陳述副詞や、後続の内容を評価する副詞的表現は、効果的に使えば文が読みやすくなるが、その共起関係についての知識は個人差・世代差があるので、注意して使う必要がある。

(5)接続助詞をともなう従属節もまた、そのあと続く後件の内容を制限していることが多い。そうした個々の接続助詞の性格を踏まえ、接続助詞を選択する必要がある。

(6)読者に正確に理解させることを旨とする論文・レポートなどでは先行要素から予想される文末表現を選択する必要があるが、小説・エッセイなどではあえてそうした予測を外すことによって特殊な表現効果を上げることができる

2.受身表現

(1)受身表現の特徴としては、①主語が交替する、必須項目が変わる、③迷惑の意味が生じる、という三点が考えられる。

(2)主語が交替することによる表現効果としては、場面をともなう文章では視点を交替させたり視点の一貫性を生み出したりする効果が、場面を伴わない文章では述べる事柄を客観視したり話題の一貫性を作り出したりする効果がある。

(3)必須項の数が変わることによる表現効果としては、とくに必須項が減少する場合、行為の主体よりも出来事の成立そのものを問題にする効果や、行為の主体を表現しないですむ効果がある。

(4)迷惑が生じることによる表現効果としては、具体的な感情を表現せずに迷惑のニュアンスをかもしだす効果がある。とくに、間接受身文には、対になる能動文に含まれていない第三者を登場させて、迷惑を受けたことを表す用法がある。また、主体自身の意志ではなく、周囲の圧力や刺激によって当該の行為に巻き込まれたというニュアンスを示す使役受身を使った用法もある。

(5)小説・エッセイなどの描写文では、受身を使うことで主語に視点を近づけ、「私」を投影できるのに対し、論文・レポートなどの論説文では、受身を使うことで「私」という存在を消し、事態を客観化することができる。

3.現在形と過去形の使い分け
(1)日本語の現在形「~する」は現在を、過去形「~した」は過去をかならずしも表すものとは限らない。とくに現在形のうち、状態性述語は終止形が現在を表すのに対し、動態性述語はテイル形が現在を表す。動態性述語の終止形は時間を積極的に表さず、場面や文脈によってその機能が決まる未分化な形である。

(2)描写文において、時間表現の選択は視点と関係がある。現在形を選択すると、その場で事態を描写しているような臨場感が得られる。一方、過去形を選択すると、過去のことを思い出しながら語るような回想の感じが出る。また、出来事としての独立性も高まる。

(3)論説文において、状態性述語の現在形と過去形が両方選択できる場合、現在形では知識として事態をとらえているような感じがある。過去形では体験として事態をとらえているような感じがある。動作性述語の場合、現在形ではその効力が現在まで及んでいるように感じられるのに対して、過去形では現在と切り離された過去の出来事という感じが強くなる。

(4)描写文では、文章のベースとなる「地」が過去形、「図」が現在形となるのに対して、論説文では、「地」が現在形、「図」が過去形となる。いずれも、「地」のがわ「図」のがわをまとめる働きをするので、ある内容的なまとまりの初めと終わりには「地」となる形が出やすい。

4.否定表現
(1)否定表現は否定の意味を表す「ない」がつく表現のことであるが、この否定表現はそれ自体では表現として意味を持たず、対になる肯定表現が想定されることで初めて意味を持つ表現である。

(2)否定表現は表現や理解のさいに一度肯定表現を経由するために間接性を持つ。また、否定表現は肯定表現の補集合を意味するため、意味の幅が広い。

(3)否定表現は、①歪曲性、②程度軽減性、③断定回避性、④必然性、⑤印象強化性、⑥文脈誘導性という六つの性格をもつ。

歪曲性否定表現の遠まわしな性格のことで、直接的な肯定表現を使わないことで語調が柔らかくなるが、遠回しな表現がかえって皮肉めいて響くことがある。

程度軽減性ー形容詞・形容動詞の否定や二重否定・部分否定で控えめな程度を表せる性格のことであるが、その控えめな部分がかえってあいまいさにつながることがある。

断定回避性ー否定表現の意味の幅を利用して断定を回避する性格のことで、否定疑問を使って押しつけがましくない表現にできるが、それがかえってもったいぶった表現になることもある。

必然性ー否定表現の必然性は受け入れがたい事態を受け入れざるをえないという書き手の姿勢を示す性格のことで、論理的必然感を出せるが、書き手の消極的な態度や責任回避の姿勢がかいま見え、読み手が不快に感じるおそれがある。

印象強化性ー全面否定を用いて肯定表現以上の強い印象を持たせる性格のことで、読み手の内容をより具体的に印象付けることができるが、不必要に強い表現はうそっぽく見えてしまう可能性もある。

文脈誘導性ー否定表現の意味の幅の広さや肯定文と対になる性質によって後続の文脈が絞られる性格のことであるが、きちんと否定の焦点を絞っておかないと誤解を誘導してしまうおそれもある。

(4)否定表現の多用に気づいたら、回りくどい、もったいぶったなどというマイナスの印象を読者に与えないよう、バランスを考えて一部を肯定表現に直す必要が出てくる。その際、否定的な意味を持つ漢語語彙を適切に選択できれば、否定表現の多用を回避することができる。

5.丁寧形と普通形
(1)丁寧形と普通形の混用は可能であり、その混用の方法にはルールがある。

(2)会話文では、目上の人には丁寧形、対等か目下には普通体を用いるので、登場人物相互の人間関係がわかり、登場人物の同定に役立つ。また、感情を吐露する文など、聞き手よりも内容自体を強く意識する文は聞き手とは無関係に普通形になりやすい。そのことを利用すれば、小説の心理描写などで臨場感を出すことができる。

(3)地の文において、読み手である「あなた」、書き手である「私」を強く意識すれば丁寧形になりやすい。とくに疑問や依頼などの形によって読者に働きかける文は丁寧形になりやすい。これによって、書き手は顔を出し、読み手に直接語り掛けるような感じを出すことができる。

(4)地の文において、真実を表す文であれば普通形に、判断や説明を表す文であれば丁寧形になりやすい。これによって、読み手に真実を客観的に紹介できる一方、主張を柔らかく提示したり、難しい事柄をやさしき伝えたりすることができる。

(5)地の文において、文脈依存性が高い文は普通形になりやすい。一方、段落の終わりに位置する文など、独立性の高い文は丁寧語になりやすい。これによって、文章の構造を明確にしたり、読者の注意を惹いたりすることができる。

6.待遇表現
(1)敬語はネイティブ・チェックが効きにくいため、ネイティブ・スピーカーであっても、外国語と同じように学ぶ必要があるものである。

(2)敬語には、動作の主体を高める尊敬語、動作の主体を低めることで動作の対象を高める謙譲語、「です」「ます」を使って聴き手を高める丁寧語、動作の主体を低めることで聞き手を高める丁重語、「お」「ご」をつけて上品なことば遣いにする美化語がある。

(3)敬語は、使わなくても、過剰に使いすぎても、適切さを欠く。

(4)従来の敬語は文末の述語を中心に考えられてきたが、実際の運用を考えた場合、話題の展開や場面、ジェスチャーや服装などの非言語的要素も含めた広い意味での敬語、すなわち待遇表現を考える必要がある。

7.指示語
(1)指示語とは、場面や文脈によってどのような意味にもなる中身のない箱のようなことばであり、便利である反面、意味を限定できるように工夫しておかないと、何を指しているかわからないと読み手に受け取られるおそれもある。

(2)現場指示の「こ」「そ」「あ」は近称・中称・遠称とする捉え方と、「こ」と「そ」(話し手の領域に属するか否か)、「こ」と「あ」(話し手・聞き手の両者から遠いか否か)という二つの2項対立で捉える捉え方とがある。

(3)文脈指示の「こ」「そ」「あ」は、書き手と読み手の共通経験を指す「あ」を除くと、「こ」と「そ」の対立になる。「その+名詞」の「そ」だけが前のものを指す代行指示は「そ」を取りやすい。「その+名詞」全体で前のものを指す指定指示では、先行文脈の中心的な話題を引き継ぐ場合は「こ」、先行文脈の付加的な情報を含めて示す場合は「そ」で指すことになる。

なお、後続の要素を指す場合や先行文脈の内容をまとめて指す場合、文脈指示に加えて現場指示的な臨場感を示したいときには「こ」が選ばれる。

(4)「省略」「指示語単独(これ/それ)」「名詞単独」「指示語+名詞(この/その~)」の使い分けは、先行文脈から同定しやすいもので、文間の意味的距離が短い場合は「省略」、先行文脈から同定しやすいもので、先行文脈との関連性を明示したい場合には「指示語単独」、先行文脈とは話題が切れており、新しい話題を始めたいときや、名詞そのものを概念やイメージを問題にしたいときは「名詞単独」、先行文脈と直接関係があるが、先行文脈から同定しにくい場合には「指示語+名詞」が選ばれる傾向がある。

8.誤解を招きやすい表現
(1)日本語で「あいまいな表現」といった場合、①複数の意味になる表現、②文脈によって多様な解釈を生む表現、③言い切らない表現、④数量・程度がはっきりしない表現の四つが想定されるが、文章を書くときにとくに気をつけなければならないのは、①複数の意味になる表現である。

(2)ある表現が複数の意味になる理由には、①言語の持つ線条性、②言語の持つ経済性、③同じ音または文字、④言語と現実との非対称性、⑤否定文・疑問文などの文のタイプの五つが考えられる。

(3)複数の意味になりうる表現を形から整理すると、①2項関係(「AのB」「AはB」)、②連帯修飾(修飾・被修飾関係、限定・被限定用「~のような」の否定)、③運用修飾(修飾・被修飾関係)、④否定(部分・全面否定、「~のような」の否定)、⑤疑問(確信と疑いの強弱)、⑥相対的空間を表す語(「前」「先」など)、⑦換喩(省略の発想にもとづく比喩)がある。こうした表現が出てきたとき、複数の意味が生じていないかどうかチェックする必要がある。

(4)文学作品ンあどでは、複数の意味が生じることを利用して、高い表現効果を上げることもできる。