ライフヒストリー良知

2-1-2 脳を測定する装置

物忘れがますますひどくなってきたと口にする方が増えています。実際、60歳代や70歳代の人たちがなにかを記憶することは、若い人よりもはるかに難しいことを示す実験データが数多くあります。

高齢者の場合、たとえ若者たちとほぼ同じスピードで記憶できたとしても、急速に記憶が薄れてします傾向にあります。

特にはっきりするのは、その出来事がいつ、どこで起きたかといった細かな内容を思い出そうとするときです。年齢を重ねれば重ねるほど、こうした細部を忘れてしまうことが多いのです。記憶のことを研究する学者たちは、この単純で大きな難問、記憶力の低下はなぜ加齢とともに大きくなるかを解明しようと努力してきました。

人間の脳は、この宇宙でおそらくもっとも複雑な物質です。そこにはおおよそ1,000億個のニューロンとよばれる神経細胞があり、多くのシナプスという細胞同士の結合部があります。

1990年代に高性能な脳の画像を調べる装置などが開発されたおかげで、脳でこれらが学習したり記憶したりするところを覗き見ることができるようになりました。

研究者たちは、これらを使っていろいろな実験を試みるようになりました。例えば、
(1)単語リストを学習している最中、脳の活動を測れば、どの単語が記憶に残り、どの単語が忘れられているか?
(2)ある出来事を経験した時、脳の活動を測れば、それを記憶しているか、忘れているかを予想することができるか?
(3)(1)や(2)のときに脳のどの部位が働いているのか?など、こうした問題を答えられるようになったのです。