ライフヒストリー良知

2-1-1 記憶の種類

記憶は、一時的な記憶から短期的な記憶、そしてより長期的な記憶へと変わっていきます。その記憶が何日、何週間、何年も後まで残るかどうかは、それが長期記憶になるかどうかにかかっています。長期記憶には3つの種類があるのです。

そのひとつがエピソード記憶特定の日時に起きた個人的な経験についての記憶です。例えば誕生日のパーティ、入学式や卒業式のこと、子ども頃に後楽園球場で観たプロ野球の試合などです。

2つ目は、意味記憶といって、一般的な知識や事実の記憶、たとえば1192年に源頼朝が鎌倉幕府を創ったことなどです。

3つ目が手続きの記憶と呼ばれる記憶です。どれだけエピソード記憶や意味記憶が損なわれていても、昔取った杵柄として自転車の乗り方や編み物の編み方などは覚えているものです。

それ以外に、知覚の瞬間と、その後の長期的なエピソード記憶や意味記憶の間に入り込む記憶があります。それが作業記憶(ワーキングメモリー)と呼ばれる第3の記憶です。わずかな記憶を短期間だけ、たいていの場合は数秒間だけ保つことで、文章を読み続けたり、人の話を聞き続けたり、また問題の解決策や言い訳を考えたりする作業を続けられるようにするのです。

例えば、

●その道のりがあまりにも長く厳しく、目的地まで歩くことができなかった。
●その道のりがあまりにも長く厳しく、大学に合格することができなかった。

この道のりが、距離を示すのか、その期間を意味するのかは、文章の後半を読まなければなりません。それでもわかるのは作業記憶のおかげであって、作業記憶が蓄積している記憶を新しい情報に合わせて引き出すからなのです。

この記憶は瞬く間に失ってしまいます。人の話を聞いているとき、相手に伝えなければならない大切なことが頭に浮かんでも、その相手が突然話題を変えると、今まで伝えようと思っていた内容を忘れてしまう。それを思い出すにはかなりの努力が必要になりますね。