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日本とは? 日本人とは?

日本とは? 日本人とは?

ライフヒストリー良知〉の事業で、ライフヒストリアンとしてなくてはならない能力のひとつが、“日本とは、日本人とは何かという命題に応えられるだけの知識と洞察力です。

僕は日本で生まれた韓国人。今から92年前、1928年に僕の祖父母は朝鮮半島の南端にある貧しい農村から日本にやってきました。二男であった祖父は日本で一旗あげるため祖母とまだ生まれて間もない私の父と共に荒れ狂う玄界灘を渡ってきた。苦難や試練の連続であったものの、この日本の地で家族と共に心豊かな生活を送ってきたと、かつて祖父は語っていました。

僕は三世として、1975年に地元滋賀の高校を卒業した後、ソウルにある高麗大学校に入学、大学時代を通して、たくさんの楽しく、そして苦い経験をしてきました。ちょうど前の大統領の朴槿恵さんの父親である朴正煕さんが大統領だった時代でしたね。

1961年に朴さんは軍事クデーター起こし、1979年側近に暗殺されるまでの19年間、韓国のトップリーダーに君臨していました。当時の韓国はほんと貧しかった。

しかし1965年に〈日韓基本条約〉を締結し日本と国交を樹立、開発独裁という手法で〈漢江(ソウルの中心市街を流れる川)の奇跡〉と呼ばれる経済成長を成し遂げた。

現在、韓国が国民総生産の世界トップ10に入り、先進国の仲間入りするほどの国になったのは、朴さんのおかげだと言っても言い過ぎではないでしょう。

だけど、反面、経済成長を急ぐあまり独裁政治が酷くなり、人々の人権が奪われたり自由が束縛されることも年々増えていった。また、ソ連の力が強かった当時、韓国は今以上に北朝鮮との準戦時体制の厳しい社会の真っ只中、それに対峙するため国内の締め付けを強化した。

〈誰が〉というより、〈時代〉がそうさせたのでしょう。

学生時代は反政府デモにも参加したけれど、この年齢になると、数々の人生経験によって若い時とは違う洞察力も身につけ、時代の変遷を振り返りながら、歴史について深く理解できるようになりました。

当時、僕は専攻とは別に韓国の歴史と文化に多大な関心を持ち、強い好奇心を抱いていました。だけど、その思いや願いも大学を卒業し社会に出てからは、仕事に家庭に何かと忙しくなり、と言うよりも、忙しさにかまけて熱意や志はなおざりになっていたのです。

あれからかなり長い時間を経て、今この〈ライフヒストリー良知〉の事業を推進することになったのですが、改めて日本と韓国両国の歴史と文化を研鑽し、そしてそれぞれの国で生活する人々のライフヒストリーを聞き書きしながら取り組んでいこうと思っています。

特に、僕が生まれ育ったこの日本や日本人のことを深く探求、その神髄について学ぶため、数々の書物を紐解き、様々な分野の人たちと出会い、時にはカウンセリングマインドをもちながら傾聴していきます。

一例を挙げると、かつて山本七平さんという有名な作家がいました。この方の〈日本人論〉は秀逸ですね。過去に〈空気の研究〉という本がベストセラーになったけれど、山本さんの日本論や日本人観は視点がしっかり定まっていて、とてもわかりやすい言葉で伝えています。

日本人の宗教観を〈日本教〉として描くクリスチャンの山本七平さんが書いた著書は、僕がこれまで接してきた日本人論の中でもっとも優れた内容だと確信できます。

自伝で言えば、福沢諭吉の〈福翁自伝〉、勝海舟の父勝小吉の〈夢酔独言〉、内村鑑三の〈余はいかにしてキリスト教徒になりしか〉の3冊は、日本の代表的な自伝で、これらを事業の礎にしています。

また、日本の宗教思想としては、今も深く関わっているキリスト教の聖書、仏教の法華経、儒教の陽明学などから得られる知識や知恵について、究めていくよう心がけています。

さらに、ライフヒストリアンとして、日本の歴史に精通していかなければなりませんね。古代史もさることながら、近・現代史がとっても重要です。ものごとは常に過去の出来事によって今があり、そして未来へ続いていきますから。

その意味で、歴史の事実を把握し、世の優れた歴史家の歴史に対する考え方や洞察をしっかり掴んでいきたい。 例えば、中国の司馬遷。僕は歴史書〈史記〉を著した人類史上最高級の歴史家に魅了されていて、司馬遷が考えた歴史の著し方である〈紀伝体〉が、〈ライフヒストリー良知〉に活用できないか模索しています。

今、たくさんの中高齢の人たちから口述自伝〈ライフヒストリー良知〉の制作の依頼を受けています。

しかしながら、〈生きてきた歴史を語り、書き記し、自伝にして後世に遺す〉という行いについて、まだまだ〈日本の文化〉になっていません。富士山に喩えるなら、やっとのことで二合目に差し掛かったところでしょうか。

これまで〈東洋に自伝なし、自伝は西洋の文化的所産〉と言われてきました。これからより積極的にこの事業を推進し、〈日本に自伝文化あり〉と言われるための取り組みを行っていきます。

末永くこのサイトに投稿していきたいと思います。今後ともよろしくお願いします。