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嫌なことは忘れやすい

嫌なことは忘れやすい

仕事柄、高齢の人たちと会話する機会が多く、認知症や記憶を失うことへの不安などがよく話題になります。統計的に認知症は、65歳以上が7人にひとり、80歳以上が3人にひとり、90歳以上が2人にひとりになると言われています。実際の介護現場に関わる感覚から、認定証の程度にもよりますが、概ねそのような数字になろうかと思います。

記憶の劣化を防ぐことや脳の健康を保つことをコンセプトとしてこの事業を推し進めていますが、中高齢のお客さんへのインタビューする際にいろんなヒントを与えることで、脳に奥底に眠っていた数々の記憶がよみがえるという感触を掴むことができるようになってきましたね。

ところで、これまで何度も「ときどき昔のことを思い出す習慣をつけましょう」と言ってきたけれど、過去の悲しく辛い出来事、嫌な体験など思い出す必要があるのかということをよく言われます。そのような思い出は、どうしても否定的な心理状態のもたらすので、当然の質問ですよね。

以前、記憶は思い出すときに作り直される側面があると指摘しました。思い出は現在の心理状態や価値観を映し出している。今の生活が順調で良好な心理状態であれば、ネガティブな思い出もポジティブなものに解釈し直すことができるんだと。

だけど、あえて「辛い嫌なことを思い出す必要はないですよ」と返答します。その方の現在の心の内がわかるまではそう言いますね。少しでも何かを抱えているなら気が滅入ってしまうモチベーションも下がりますから。

思い出が美しくなるというのも、昔は良かったという気持ちを持つ人が多いのも、嫌なことは思い出しにくくなるからですね。そこには、フロイトのいう「抑圧」という深層心理の働きがあるようですね。「抑圧」というのは、意識にのぼると不安になったり、不快になったり、怖くなるなど、否定的な気分をもたらすことがらを無意識に封じ込める心理メカニズムのことです。

フロイトは、「記憶喪失」なんかも「ど忘れ」もこの「抑圧」が絡んでいると言っています。例えば、好きな女性がある知人と結婚して以来、その知人の名前を「ど忘れ」するようになったという事例をあげて、それまでは当たり前のように名前が出てくる相手だったのに思い出すことができず、いつも周囲の人に名前を尋ねるありさまだったと。その知人の名前は、好きな女性が他の男性に奪われたといった心に傷になる出来事と結びついているために、抑圧が働き、思い出しにくくなっているのですね。

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