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記憶とアウグスティヌス

「お客さまの記憶を作り直す。」 これが口述自伝“ライフヒストリー良知”の事業目的のひとつです。

心理学者の榎本博明さんは、「記憶の整理術(忘れたい過去を明日に活かす)」という本の中でこう言います。『記憶というのは、単に過去を振り返る心の機能だけではない。記憶は、未来を見通す心の機能であり、現状をとっさに見抜く心の機能でもある。』

この中で神学者として有名なアウグスティヌスと記憶の話について書いています。今から1600年以上の前にアウグスティヌスは、「未来はまだここに存在しない。ゆえに未来や過去が存在するとしたら、今ここの現在以外に考えられない。つまり未来とか過去といったものは存在しない。あるのは過去についての現在、現在についての現在、そして未来についての現在である。そして過去についての現在が『記憶』だ。」と言うのです。

『思い出される過去には、思い出す現在の視点が色濃く反映されている。ゆえに、「今ここ」で思い出される記憶には、今の心理状態や価値観・欲求が強く関係している。過去の自分の悲しい出来事を今穏やかな気持ちで思い出す場合、悲しみを記憶しているはずなのになぜ悲しくないのだろうか。』

つまり、想起によって記憶から取り出されるとき、その出来事はかつての心ではなく現在の心で味わわれる。以前は悲しいて仕方なかったことも、自分を鍛えてくれた懐かしい出来事のように思い出されたりする。

榎本さんによると、最新の心理学は、このアウグスティヌスの考え方に回帰してきているのだと言います。つまり、記憶と言うのは、出来事が起こったときのままに引き出されるのではなく、思い出すときにつくり直されるのだ。

「記憶を作り直す。」 この時、心理カウンセラー、或いは私たちのようなライフヒストリアンのような存在が必要なのですね。