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自伝のいろいろ

「自伝」は英語でautobiography。1800年代の初めごろに生まれた比較的新しい単語らしい。日本語の場合なら、おそらく福沢諭吉の『福翁自伝』(1899年)が一番古い事例でしょう。もっとも江戸時代の学者、新井白石や山鹿素行が書いた自伝なども遺っていますが、あまり世の中に知れわたっていませんね。

実は、『福翁自伝』の4年前に、『余は如何にして基督信徒になりし乎』という内村鑑三の自伝が発刊されています。この宗教的自伝というのは、5世紀の初頭に書かれたアウグスチヌスというキリスト教徒の自伝『告白』などに感化されたものと思われます。

私は、内村鑑三とアウグスチヌス、両方の本を読みましたがひじょうに難しい。キリスト教については幾分理解をしているつもりですが、それでも文章が自体がとても読み辛い。内村の場合は明治時代なので口語文で書かれているし、『告白』はなにしろ遠い昔に書かれた翻訳本ですからね。

『福翁自伝』は原本だと少し読むのが苦になりますが、現代訳本はとても読みやすい。『福翁自伝』は福沢諭吉が自ら書いた自伝ではなく、当時福沢が経営していた東洋新報という新聞社の記者であった矢野由次郎が口述筆記で書いて、福沢が推敲してできたもの。これは絶対お薦めですね。

私が、口述自伝作成の仕事を行う上でもっとも参考にし模範としているものが、この『福翁自伝』。そして勝海舟の『氷川清話』ですね。『氷川清話』は「話し言葉」で書かれていて、勝海舟の江戸弁、その言い回しや口調がそのまま文章に表れています。実に読みやすく、勝海舟の性格、思想、行動力などが手に取るようにわかりますよ。

とてもいい本に巡り合ったと思っています。