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シベリア抑留

介護施設には、いろいろな体験をされた高齢者が入所して来ます。

その中で、戦前、旧満州や朝鮮半島に住んでいた人たちも少なからずいて話を聴くことも多くあります。とは言っても70年以上前のこと。90歳を超えて認知や記憶の低下が著しい高齢者の話は自ずと断片的なものになります。

月に1回、施設を利用するBさんという94歳になられるとても穏やかな表情の高齢者がいます。戦時中、兵隊として旧満州に住み、終戦時にロシア軍によってシベリアに抑留された方です。私とはとっても仲が良く、これまで利用される度に様々な対話を繰り返してきました。

シベリアで抑留され、そこで考えたことは、“どうしたら生き残れるか”。『自分の上司だった人らは、寒い寒いシベリアでロシア人に抵抗してほとんど殺されたわ。自分は逆らうのを辞めたんや。もうなすがままやな。だから生き残って日本に帰って来ることができたんや。』と仰っていましたね。

“俺だったら、こんな時、どうするだろう。おそらく、ロシア人に反抗して殺されていただろうな。”とBさんの話を聴きながら自己評価。なぜBさんはいつもニコニコしているのだろう、なぜ怒らないのだろう、しかめっ面の表情なんか見たことがありません。『シベリアで性格が完全に変わったんや』と。

Bさんのような体験者は、年々少なくなっていきます。残念なのは、この貴重な体験がBさんの頭の中、記憶のなかだけしか残ってないことです。Bさんが亡くなれば、すべてが消え失せてしまいます。少しでもいいから、Bさんのライフヒストリーをこれから生きる若者たちに遺せたらなァと改めて思っているところです。

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