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記憶

高齢者の人たちと接していると、つくづく「記憶」のことについて考えさせられます。

自分というのは、「記憶」で成り立っていると言っても言い過ぎではないなと思っています。それくらい「記憶」というのは人間にとって大事なもの、もっとも大切な持ち物なのですね。

短期記憶を喪失したアルツハイマー型認知症を抱える高齢者の方とお話をする機会が多いのですが、たいていの人は言葉をあまり発せずおとなしくなります。しかし、中には立て板に水のように話をする人もいるので症状は定まったものではなく個人差が顕著に表れます。

先日も、80歳前半の認知症を抱える元銀行員いう人と会話をしていました。その日は夜勤の日で他の利用者が寝静まった後、フロアーで二人きりなって翌朝4時ごろまで延々と昔話をただひたすら聴いていました。同じ話が何回も何回も繰り返され、話をした後、ものの10秒もかからずその内容はすべて忘れ去っています。このような認知症の特性を有する人と接するときは忍耐力を要しますが、「聴く」という姿勢を前面に出すことが大切と思っています。

短期記憶は脳の海馬という部位が役割を担い、また長期記憶は脳全体のネットワークによって保たれています。「記憶」に関する研究はまさに日進月歩で、画像技術が進歩する中でいろんなことがわかってきました。しかし、「記憶」を喪失した人の脳を手術や薬、或いは心理療法で回復させることは今のところ不可能ですね。

「記憶」があるからこそ、自分が持っているあらゆるものを評価できます。自分がこれまでどんな人生を送ってきたかを教えてくれるのも「記憶」です。「記憶」こそが過去と現在と未来を統合してくれますね。

「記憶」をいかに劣化させず維持させるか、これが高齢化社会の最大の課題のひとつであり、私の仕事のテーマでもあるのです。

脳(2))