ライフヒストリー良知

良知の知識と智慧

日本語文化 / 書籍

≪日本人とは何か≫

【山本七平(作家)】
●日本は有史以来、さまざまな国の文化や制度を受け入れてきたが、その導入にあたっては単なる模倣に終始せず、一つ一つ日本に合った独自の形に同化、発展させてきた。

●日本人は、東アジアの最後進民族だ。西暦紀元ゼロ年ごろ、日本は自らのの文字を持たず、統一国家も形成しておらず、どうやら石器時代から脱却した状態だった。当時の中国と日本を比較した人がいたとしたら、その文化格差は、まさに絶望的懸隔と見えただろう。常にそう見られて不思議でない民族だ。それが何かの刺戟で恐ろしいばかりの速度で駆け出すというだけ。いわば、人類史を駆け抜けて来た民族なのだ。

●日本は有史以来、さまざまな国の文化や制度を受け入れてきたが、その導入にあたっては単なる模倣に終始せず、一つ一つ日本に合った独自の形に同化、発展させてきた。

●日本文化とは何か。それは一言でいえば「かな文化」であり、この創出がなければ日本は存在していなかった。さらに、近代化・工業化にも多大の困難を伴ったであろう。そしてその文学を創出していく期間、いわば、「戦慄すべき万葉がな」の期間は、同時に律令制が出現へと向かっていく期間だったのである。日本人はまことに能率的に、文字と文字と中央集権的統一国家とを併行して形成していった。

≪日本を創った12人≫

【堺屋太一(作家)】
●日本と日本人の特徴、日本社会の特色を創り上げてきた根源に、風土と人物がある。風土において、日本は世界的に見ても確かに特別な地勢だ。

●第一に、アジア・モンスーン地帯に属し、気候が比較的温暖かつ湿潤である。これが米を作るのに向いていた。従って米作農業が大い発展した。日本と家畜との関わりは薄く、意思あるものを制御する手法が、有畜時代を経験した諸外国と非常に異なったものになった。

●第二に、日本国土を形成する四つの島は、他の国々からは「狭くない海」で隔てられていることだ。従って、大量の人々が集団的組織的に、軍事目的や政治目的を持って渡海することは非常に難しかった。しかし、この海は古代技術でも渡れぬほどには狭くなかった。

●第三に、日本国土の主要な四つの島は、非常にまとまりがよい。そのため、同一文化が育ち、どこかに中核的な政治勢力ができると、全体がひとつの国家になり易かった。
◆聖徳太子-「神・仏・儒習合思想」の発案
◆光源氏-「上品な政治家」の原型
◆源頼朝-「二重権限構造」の発明
◆織田信長-「否定された日本史」の英雄
◆石田三成-「日本型プロジェクト」の創造
◆徳川家康-「成長志向気質」の変革
◆石田梅岩-「勤勉と倹約」の庶民哲学
◆大久保利通-「官僚制度」の創建
◆渋沢栄一-「日本的資本主義」の創始
◆マッカーサー-日本を「理想のアメリカ」にする試行
◆池田隼人-経済大国の実現
◆松下幸之助-日本式経営と哲学の創出

●日本は、外来文化の熱心な受容者だった。その一方で日本人は、実にユニークな独創性を発揮した。

≪代表的日本人≫

【内村鑑三(思想家・宗教社会学者)】
●私は宗教とはなにかをキリスト教の宣教師より学んだのではありませんでした。その前に、日蓮、法然、蓮如など、敬虔にして尊敬すべき人々が、私の先祖と私とに、宗教の神髄を教えていてくれたのであります。

●何人もの(中江)藤樹が私どもの教師であり、何人もの(上杉)鷹山が私どもの封建領主であり、何人もの(二宮)尊徳が私どもの農業指導者であり、また何人もの西郷(隆盛)が私どもの政治家でありました。

≪漢字文化の回路(東アジアとは何か)≫

【李相哲(大学教授)】
●サムライの生き方が今なお日本人の理想であるかどうか、また心の拠り所であるどうかは、疑いなしとしないが、それを日本独特の価値観であることは間違いない。今でも日本人は、サムライを実践しないまでも、その精神に共鳴し賞賛する、いや、賞賛しないまでも理解はできる、それを善しとしないまでも、それがどういうものかを日本人なら感じ取れるのだ。

●過酷な状況に耐え困難に立ち向かう。責任を全うするためには死をも辞さない。勝負には真剣に取り組み、命懸けでがんばり、最後まであrきらめない。このような日本人は、もはや多くないのかもしれないが、日本のサラリーマンや技術者はしばしば、このような精神の持ち主と認識され、事実、彼ら自身もそのように振る舞うことがある。

●日本は中国からすべてを学んだのではなく、結果的に、中国文化から選択的に、必要なものだけを取り入れた。しかも、中国人が理想としている新し部分を取り入れ、日本人に固有のものを残しつつ、文化を作った。

●第一に、日本は中国文明圏の他の国と違っていちども中国の直接統治を受けたことがない。中国を尊敬していても隷属することはなかった。

●第二に、日本文化の若さだ。日本列島が文明の段階に入ったのは紀元5世紀ごろだ。これによって、日本の文化が柔軟性に富み、他の文化に対する抵抗感が少なく、中国文化だけにこだわらないのはそのためである。

●第三に、日本列島における中国文化の受容は、強制によるものではなく、むしろ自発的であった。これは島の外への好奇心と恐怖心が、その態度を積極的なものにさせた。

≪文明の衝突と21世紀の日本≫

【サミュエル・ハンチントン(政治学者)】
●この新しい世界、多文明で現在のところ一極・多極だが、おそらく真の多極システムへと向かっている世界において、日本はどのような役割を演じているのだろうか。

◆第一に、文化と文明の観点からすると、日本は孤立した国家である。他のすべての主要な文明には、複数の国が含まれる。日本が特異なのは、日本文明が日本という国と一致していることである。日本には、他の国に存在する国外離散者さえ存在しない。

◆第二に、最初に近代化に成功した最も重要な非西欧の国家でありながら、西欧化しなかったという点である。近代化の頂点にありながら、基本的な価値観、生活様式、人間関係、行動規範においてまさに非西欧的なものを維持し、おそらくこれからも維持しつづけると考えられる社会である。

◆第三に、日本の近代化は革命的な大激動を経験せずに成し遂げられたことだ。イギリス、アメリカ、フランス、ロシア、中国には革命があったし、ドイツはナチズムというかたちで、一種の革命があった。日本の近代化は、上から課された主要な改革の時代-明治維新と米軍による占領-のなかで進められたのである。

◆第四に、他の国とのあいだに文化的なつながりがないことだ。日本は、なんらかの危機に見舞われた場合、日本に文化的なアイデンティティを感じるという理由で、他の国が結集して支援してくれることを当てにできない。一方で、他の社会と文化的なつながりがないために、支援をする責任がなく、自国の独自の権益を思うがままに追求できる。

≪手掘りの日本史≫

【司馬遼太郎(作家)】
●日本社会は、歴史的に一神教的な風土ではなかったし、したがって、絶対神というものを、私たちは本質的に理解できない。それよりも、多神教的と言いますか、汎神教的というか、山や谷やせせらぎにも神様がいるという、そんな国に私たちは生まれている。こういう風土のなかで、なにか自分を許容する、自分の不節操を許容してきたのではないか、と思うんです。

●日本人というのは、本来が無思想なんです。あるいは本来が無思想なればこそここまでこられた、とも言えるのではないでしょうか。さらにはもう一方で、日本人がテクノロジーに関する秀才だからではないでしょうか。無思想で技術がある。

●思想的民族というのが、世界にはふんだんにいます。しかしながら日本人は、それに入っていない。無思想という思想が日本人の底の底にあるのではないかと思う。私のイメージでいいますと、それは巨大なフライパンのようなものではないか。いろいろなものを乗せたり、これを煮炊きすることができる。思想を載せることができる容器のようなものですね。

●それはおそらく思想というより、美意識だと思います。簡単に美意識と言ってしまうと、誤解を招きやすいのですが、私はそれをたとえば“神道”ということで考えています。

●要するに美意識というフライパンで、思想はその上に乗っかるだけ。

●フライパンと言っても、これは仏教的な油や、儒教の油や、マルキシズムの油や、いろいろな油が浸みこんで、相当重厚なフライパンになっているのはたしかです。しかし、フライパンの組成まで変えてしまうことはない。

●日本人は、歴史の中で見ると、やはり能力があるということになるでしょうか。ともかく、日本の歴史は、眺めるに値いするものをもっています。日本人の組織能力、社会を組みあげる能力が高いということですね。

≪日本人の意識構造≫

【会田雄次(文学博士)】
●背の表情、後ろ姿の表情を日本人ほど深く感じ取る民族がいるだろうか。表は固く閉ざしていても、枝折戸を開けておくというのが日本人の癖である。

●異質な文化を理解するとき、自ら白紙の状態におくことでそれを遂行しようとする立場である。日本文化は、この白紙的立場をつねに保っているということを特質とするものだといってよい。日本に独自な「察し」と「思いやり」というコミュニケーションのあり方は、この白紙的立場の基礎の上に築かれているといえよう。

●日本人は言語発生と成長の段階で、拾集と純粋な農耕だけを持ち、狩猟を経験していない、実に特殊な民族である。ヨーロッパ人には、ヨーロッパ語の成立期にこういう狩りが大切な生業だった。とすると、そういう共同動作をしている人間は互いに、明確に意志を伝達するシグナルを交換しなけらばならない。それが曖昧なものだったら、作業はうまくいかないし、危険でもある。発生によるシグナル、つまり言語は明確な対象限定、正確な意志表示を持つものになる。しかし、拾集や純粋農耕の共同動作の世界ではそんな必要はない。ここで生まれた言葉は、いたわりや、ねぎらい、はげまし、同情といった狩りには不必要で有害な、情意の交換用のものとなる。

●日本人の思考と行動を規定する道徳原理は、神の前の良心といったものではない。他人に前で「恥」をかかねばよいというだけのことになる。

≪日本語と日本人の心≫ 

(大江健三郎・河合隼雄・谷川俊太郎)
●書き言葉は、方言的なものをどう表現するかということに注意しなくてはならない。

夕焼けと牧場