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良知の知識と智慧

記憶・脳科学 / 智慧

◇記憶は、神経細胞のネットワークの変化として脳に刻みつけられる

〈記憶〉するとはどういうことだろう?粘土に手を押しつけると手形が残るように、脳の中にも何らかの〈記憶の跡〉が残っているはずだと考えられている。その跡とは〈神経細胞のネットワーク(神経回路)の変化〉のこと。つなぎ目(シナプス)が大きくなって情報伝達の効率が上がったり、つながり方が変わったりする。また新たにシナプスができることもあれば、シナプスが小さくなったり無くなったり、その変化が維持されたりする。ネットワークの変化が維持されていけば、あとで同じパターンの情報伝達を行うことができる。

つまり〈記憶〉を「思い出す」ことができる。なお同じことを繰り返し記憶(学習)すると、特定のつながりが強化されて忘れにくくなる。

◇記憶の内容によって、必要とされる脳の部位が異なる

〈記憶〉はその内容や覚えている時間によって、いくつかの種類に分けることができる。そして、記憶の種類によって、記憶するときに使われる脳の場所や、記憶が保存される場所が違うと考えられている。

例えば、「てんかん」の治療のために脳の一部を取り除いたある患者には、記憶に関する不思議な症状が現れた。その患者は、27歳の時に〈海馬〉という部位を手術で取り除いた。その結果、食べた食事のメニューなど、新しく経験した出来事を記憶できなくなってしまった。〈海馬〉は新しい記憶をつくるときに必要な部位だ。

かと思えば、「☆」の形を鏡ごしに見ながらペンでなぞるといった試験を行うと患者は日に日に上達した。つまり、〈身体の動かし方に関する記憶〉は覚えることができた。〈記憶の種類〉によって必要とされる脳の部位が違うのだ。

〈記憶〉と関係が深いものに〈学習〉がある。〈学習〉とは、新しい情報や行動の仕方を記憶することだといえる。また「失敗から学ぶ」というように、経験をもとにこれまでの行動の仕方や考え方を変化させることも、〈学習〉だといえる。〈記憶〉と同じく、〈学習〉によって神経細胞のネットワークに変化がもたらされると考えられている。

◇記憶の種類
記憶はいろんな分け方で分類することができる。内容による分類(以下の説明)、時間による分類、また記憶していることを私たちが意識しているかによって分ける(顕在記憶と潜在記憶)こともある。
■エピソード記憶ー個人の経験や出来事にもとづく記憶。海馬がないと新しいエピソード記憶は覚えられない。
■意味記憶ー言葉の意味や数式、年号など、いわゆる知識とよばれる記憶
■手続きの記憶ー特定のスポーツの技術や自転車の乗り方など、身体の動かし方に関する記憶。この種類の記憶は、海馬がなくても覚えられる。

◇記憶が脳に刻まれるまで
私たちの記憶は、〈大脳皮質〉に保存されている。記憶を作るときに重要な働きをするのが、〈海馬〉で視覚や嗅覚などの感覚情報が集められる。そして前頭葉などの大脳皮質への書き込みを助けている。

記憶の読み出しにも、一時的に(最大で数か月程度)海馬は必要だ。ただし一定期間過ぎれば海馬の助けがなくても大脳皮質にある記憶を読み出せるようになる。