ライフヒストリー良知

良知の知識と智慧

記憶・脳科学 / 書籍

≪無意識の記憶≫

【ジークムンド・フロイド(オーストリアの精神分析学者)】
●過去の経験は、意識の中に何も残らなくても、無意識の記憶となって、すべて蓄積される。

≪記憶力を強くする≫

【池谷裕二(東京大学大学院薬学系研究科教授)】
●意味記憶を思い出すためには「きっかけ」が重要である。記憶の再生という行為には、「記憶」以外の脳の高次元の機能が深く絡み、脳にとっては想像を絶するほど煩雑な仕事。なぜなら、保存されている無数の記憶を「検索」して、その中から目的の記憶を探り出さなければならない。
●より多く連合された記憶は、それだけ検索に引っかかる可能性が高く、その分、その事象に行き当たる確率が高くなり、思い出しやすくなる。エピソード記憶が、意味記憶と異なり、任意に再生できるという理由は、エピソード記憶のほうがはるかに多くの事象を複雑に連合されているからにほかならない。
●「思い出せ」という指令はいったい何者か? それは「意識」ということだ。 ある特定のものを思い出そうとする「意志」だ。こうした「きっかけ」があって、初めて事象を思い出すことができる。

≪記憶と情動の脳科学≫

【ジェームス・L・マッガウ(カリフォルニア大学アーバイン校教授)】
●記憶こそが過去と現在と未来を統合してくれている。
●小さなストレスは記憶するときには強めてくれるが、思い出すときは一時的に妨害する。
●いろいろな出来事を思い出し、人に伝えるときには、思い出そうとしている出来事の記憶だけでなく、それに関連する過去の経験や知識も一緒に引き出されてしまう。
●蓄積された知識のおかげで、私たちはばらばらになった記憶の断片を組み合わせることができる。そのことによって記憶は首尾一貫した話となり、他人に伝えることができる。
●繰り返すことによって強固になった記憶や、情動をかきたてる経験の強烈な記憶は、誤った情報の影響を受けにくい。

≪記憶のしくみ≫

【ラリー・R・スクワイア(カリフォルニア大学医学部サンディエゴ校教授)】
【エリック・R・カンデル(コロンビア大学神経生物学行動センター教授)】    
〈上〉
●想起の手がかりの重要性を強調している。貯蔵のとき強く記憶したからといって、その記憶を後になってうまく想起できるとは限らない。うまく想起するためには、想起の指示や手がかりが記憶を生き返らせることができなくてはならない。もっとも有効な手がかりは、思い出そうとしている出来事のもっともよく符号化(コード化)された特徴を呼び起こすものである。
●想起するということは、一種の再構成の過程であり、過去を文字通り再生するものではない。結局のところ人は、想起した経験を、それが過去の事柄の正確な再生ではないが近似であるときでも、的確であり主観的に説得力のあるものとして受け入れるのである。
●気分や心の状態もまた、何をどれだけ思い出すか左右する。想起はある程度、心の状態に依存して起こるのである。
●全体として、ある事物について学習したときに存在した状況や手がかりが、後に想起しようとするときに存在する状況や手がかりと同一である場合に、想起はもっともよく成功する。水中で学習した単語は水中でもっともよく思い出すことができ、浜辺で学習した単語は浜辺でもっともよく思い出すことができた。
●時間とともに詳細は脱落し、過去に起きたことの要点や主要な意味は残るが、かつては目に浮かんださまざまな印象は失われてしまう。
●望ましくない記憶は、能動的かつ意識的に抑制することによって弱くなった。
●われわれは本当に忘れるのか、それとも、まだ脳に存在している記憶を想起する能力を失っているだけなのであろうか?
●「記憶はもろい」ということは万人が経験するところである。
●内側側頭葉こそが、われわらが「記憶」とよぶ「認識的経験の保持」を担っているのである。

〈下〉
●一般的に良い記憶とされる「フラッシュバブル記憶(閃光記憶)」は、ほとんど人が人生のいろいろな場面で経験する。フラッシュバブル記憶は、あるときは保存され、生涯続く詳細で鮮やかな記憶である。
●劇的な個人の出来事や、歴史的な出来事の詳細は、どのよウにして保存されるのだろうか?驚いたり感情を変化させるような出来事は、脳の偏桃体によって記憶へと結び付けられる。
●長期記憶の最終的な貯蔵部位は、人や場所や物事の情報を最初に処理する大脳皮質のさまざまな領域にあると考えられる。
●われわれが新しい情報を獲得し、保持できるのは、脳の記憶のシステムを容易に変えられるからである。しかもシステム的のシナプス結合を強めたり弱めたり、永久的な構造変化すら起こせるのである。
こうした脳の可塑性(かそせい)は、われわれの個性や精神生活の根本をなすものである。
●われわれが日々、新しい情報を獲得し、それを記憶として蓄積するにつれて、脳内では新しい解剖学的変化が引き起こされている。われわれが異なった環境で育ち、異なった経験をするので、脳は一人ひとり異なる。
●ニューロン間の結合のパターンや結合強度は、個々の遺伝子構成に応じて異なる。加えて、シナプス結合のパターンや強度は、経験によってさらに改変される。

≪なぜ、「あれ」が思い出せなくなるのか≫

【ダニエル・L・シャクター(ハーバード大学心理学部教授)】
●記憶を貯蔵するときに、強く記憶したものが後になってうまく想起できるとは限らない。うまく想起するためには、想起の指示や手がかりが記憶を生き返らせることができなくてはならない。もっとも有効な手がかりは、思い出そうとしている出来事のもっともよくコード化(符号化)された特徴を呼び起こすことだ。想起という行動は、その後の記憶を改善する。思い出そうとする行動が繰り返し練習するリハーサルのような機会となる。
●失われたように思える記憶でも、それがもともとどうやってコード化されたかを思い出させるヒントがあれば回復できる。
●ヒントの数を増やすほど、その出来事の鍵を思い出しやすくなる。
●物忘れとは、完全な忘却でなく不完全に記憶されている状態で、その不完全な記憶のまわりには経験の断片が散らばっている

≪老いて賢くなる脳≫

【エルコノン・ゴールドバーグ(大学医学部神経学教授)】
●大脳皮質で頻繁に呼び起こされる知識が2種類のメカニズムによって守られていることが明らかとなった。それは、「パターン拡張」と「エフォートレス・エクスパート」である。
 ◆「パターン拡張」とは、経験を積んだり、練習をくりかえして脳の特定領域を頻繁に使ううちにその周辺部分も活発になってくること。
 ◆「エフォートレス・エクスパート」とは、知識や記憶を呼びだす頻度が高くなると、それに必要な代謝量が小さくなること。

●記憶形成につながるニューロン(神経細胞)のさまざまな変化が接合部であるシナプスで起こっている。具体的には新しい樹状突起が成長したり、神経伝達物質が増加したり、受容体の数が増える。そうした変化がニューロンの集団内の接続を良くして、ちょうど砂地に掘った溝に水を流すように、特定経路に沿って連続的に活性化をうながしていく。
●記憶はよみがえるたびに再構築と再編成が行われている。
●年齢が高くなるにつれて、右脳は左脳より速く老化していき、左脳は生涯を通じて、右脳より精神活動の恩恵を受ける。つなり、左脳は認知活動によって強化されるため老化の影響を受けにくい。
●脳は死ぬまで外からの刺激に反応して成長を続ける。

≪脳と意識の地形図≫

【リタ・カーター(医療ジャーナリスト)】
●想像は完全に記憶に依存している。過去や未来であろうと、架空のことであろうと、思い出したり想像したりするときは、同じ神経基盤で行われている。
●未来の計画をたてるには、まず架空の出来事を思い描き、あらかじめ経験できなくてはならない。未来の状況を正確に、かつ豊かに描くことができれば、考えられる結果やそれに至る計画立案のプロセスが望ましいかそうでないかを区別できる。

≪記憶の想起≫

【ゴードンバウアー(スタンフォード大学:心理学者)】
●気分や心の状態は、何をどれだけ思い出すか左右する。悲しい気分になるような言葉を提示すると、その人はネガティブな経験を思い出す傾向にある。想起はある程度、心の状態に依存して起こるもの。
心の状態は、それと類似の精神状態でコード化(符号化)され出来事の想起を促進させる。ある出来事について学習したときに存在した状況や手がかりが、後に想起しようとするときに存在する状況や手がかりと同じである場合、想起はもっともよく成功する。

≪記憶力≫

【ウイリアム・W・アトキンソン(弁護士・作家)】
●はるか昔、知識や経験は、口から耳に伝えながら受け継がれてきた。
●目よりも耳から頭に入ってくるもののほうが記憶に留まりやすい。
●頭脳レベルに個人差があるのは、注意力(意識を集中する力)の度合いに差があるからである。
●記憶に関する3つの原則
◆第1の原則
すべての印象は、類似の性質を持つ過去の印象をよみがえらせる傾向がある。ただし、過去に受け取った印象が潜在意識の領域に呼び戻されるのは次の場合である。
・印象が鮮明に受け取られていた場合、
・あいまいに受け取られた印象が思い出す作業によって何度も潜在意識に呼び戻された結果、強くなった場合
◆第2の原則
すでに記録されている印象と似ている印象を受け取った場合、その類似性が認識されなければ、2つの印象は別々に保管される。しかし、新しい印象を受け取ると同時に過去の印象がよみがえり、類似性のある印象だと認識されれば、2つの印象は記憶の中で結び付けられ、いっしょに保管される。
◆第3の法則
関連づけられた印象の鎖の一部が顕在意識によみがえると、残りの印象も最小限の努力で思い出すことができる。また、ひとつの印象を思い出すと、同時に記録されていたほかの印象も、類似性に関係なくすべてよみがえる。
●記憶する能力と思い出す能力は、段階を踏んだ訓練と頻繁な復習によって大幅に伸ばせる。

≪脳を最適化するブレインフィットネス≫

【アルバロ・フェルナンデス(シャークブレインズ最高経緯責任者)】
【エルコノン・ゴールドバーク(シャークブレインズ最高科学顧問)】
【パスカル・マイケロン(認知心理学博士)】
●特定の認知力を鍛えるためにデザインされた認知エクササイズは、記憶力を含めてターゲットとする認知力を向上させることができる。
●記憶力改善を目標にした場合、記憶力だけでなく、注意力や集中力を刺激することが必要となる。

≪スマート・エイジング」という生き方≫

【東北大学加齢医学研究所教授】
●前頭前野は前頭葉のほとんどを占める大きな領域。側面の上側を専門的には背外側前頭前野と呼ぶが、ここが脳の中の脳、認知的な働き自身を制御するという、いわば、脳全体の司令塔という役割を果たしている。ここで記憶や学習、注意力の制御、行動や感情の制御などのほか、様々な意志決定が行われ、その中核のひとつに作業記憶がある。
●前頭前野の側面の下後方には、背復側前頭前野がある。他者とのコミュニケーション、自分の考えや気持ちを言葉として表現する働きが大脳のこの部分の左半球に宿る。
●前頭前野の底面は眼窩前頭部があり、ここで報酬に基づく判断にかかわる情報処理が行われる。
●中年期以降、名前など固有名詞が出てこない「物忘れ」は、過去に経験した記憶を脳の貯蔵庫である側頭葉下面から取り出す能力の低下である。
●自分がとった行動や新しい情報を脳に記憶として書き込むのは背外側前頭前野の機能低下。
●認知機能の中で成人期以降に直線的に機能低下を示すことがわかっている背外側前頭前野の中のワーキングメモリー(作業記憶:一時的に頭の中に書き留めておき、それを加工し行動に結び付けていく)に注目し、この作業記憶のトレーニングを提唱することにした。
●作業記憶トレーニングによって、背外側前頭前野の広範な領域で可塑的な変化が生じることを証明した。    
●数を数えたり、単純な計算をしたり、文字や文章を書いたり読んだりしているときに、左右大脳半球の背外側前頭前野を含めて多くの大脳皮質が活発に働いていることを見つけた。

≪自伝的記憶の心理学≫

【佐藤浩一(心理学者)】
●「自伝的記憶」とは、人が生活の中で経験した様々な出来事に関する記憶の総体である。
≪自伝的記憶研究の理論と方法(1)~(4)≫
【佐藤浩一・槙洋一・下島裕美・堀内孝・越智啓太・太田信夫(大学教授)】
●自伝的記憶はいったい何に役にたっているのだろうか?
(1)自己機能
自伝的記憶は人間の自己の連続性や一貫性を支えたり、望ましい自己像を維持するのに役だち、また、過去と現在を対比させることで成長を実感するのに役立つ。
(2)社会機能
社会機能とは、自伝的記憶が対人関係やコミュニケーションにプラスの影響を及ぼす。
(3)方向づけ機能
自伝的記憶が様々な判断や行動を方向付けるのに役立つ。
●適切な聞き手を得て自らの転機を明確に意識できた者は、自己内対話によって転機による自己の成長を繰り返し意識できるようになるのではないか。
●想起という過程がなければ、記憶内容は機能を発揮しえない。想起され、『あれが出発点だった』と意味付けられた瞬間に、出発点としてその人を励まし、自己の一貫性を確認するといった機能を発揮する。

●自伝的記憶の想起に脳のどの部位が関与しているか検討する研究が、近年、進展している。
●自伝的記憶の想起には、視覚イメージの形成や意味記憶の活性化などの成分も含まれている。そのため、脳の部位を特定するには、適切な統制条件の設定が必要となる。
●Maguireは、公的な出来事の検索、自伝的事実の検索、一般的知識の検索を統制条件として設定し、前頭葉内側部と左半球の海馬が自伝的記憶に関わっていると指摘している。

≪記憶はウソをつく≫

【榎本博明(心理学博士)】
●記憶というのは不思議なものだ。僕の記憶は紛れもなく僕自身のものであるはずなのに、自分の思うようにはならない。記憶の貯蔵庫から必要に応じて引き出せたら便利なのに、なかなかうまい具合にいかない。
●どうも記憶は、貯蔵庫におとなしく保存されているような代物ではないらしい。事後にさまざまな経路で流入していくる情報や、思い出そうとする僕自身の心理状態の影響を受けて、刻々と姿を変えていくようなのだ。まるで生き物だ。
●そのように変幻自在な記憶であるから、ときに自分の記憶にだまされることもある。

≪記憶の整理術≫

【榎本博明(心理学博士)】
●過去の出来事を思い出すような記憶を「回想記憶」という。過去を振り返って引き出す記憶のことである。「回想記憶」が得意かどうかは、「過去を振り返る心の習慣」を持っているかどうか関係しているようだ。
●回想記憶には2つの効用がある。ひとつは過去経験をストックしつつ必要に応じて引き出せるようにときどき反芻していおくことで、現在の情況に適切に対処するためのヒントが得られる。
●もうひとつは、プラスの感情と結びついた過去経験を引き出すことで自分自身を勇気づけたり、モチベーションを高めるなど、自分の心理状態のコントロールに活かせるということである。
●夢ある「未来展望」を描けるかどうかもモチベーションに影響する。その際に「未来展望」のもとになるのは過去経験である。

≪思考の整理学≫

【外山滋比古(作家)】
●知的活動の中心は、記憶と再生。記憶は人間にしかできない。大事なことを覚えておいて、必要な時に、思い出し、引き出してくるというのは、ただ、人間のみできること。記憶と再生の人間的価値がゆらぎはじめた。ひとつは、コンピューター、そして、認知症。これからの人間は、機械やコンピューターができない仕事をどのくらいよくできるかによって社会的有用性に違いが出てくる。
●他人の書いたものをいかにまとめるか。本を読む。読めば知識が増える。材料は多くなるがそれだけまとめはいっそうやっかいになる。たいへんな勉強家でありながらほとんどまとまった仕事を残さないという人ができる。もう少し想を練らなくては書き出すことができない。とにかく書いてみる。

≪記憶から歴史へ(オーラルヒストリーの世界)≫

【ポールシンプソン】
●歴史は究極のところ、その社会目的に支えられている。
●あらゆる種類の人々の人生経験が、生の資料の人生経験として歴史研究に使われるようになれば、新しい方向性が歴史に与えられる。オーラルヒストリーは刊行された自伝と非常に似通った歴史史料であるが、自伝よりはるかに広い範囲に及んでいる。
●よりよいインタビューアーになるためには、人間関係を理解することなど、新しい技術が歴史家に要求される。
●歴史家は学ぶためにインタビューに行き、異なった社会階層のの出身者であまり教育を受けていない人々、何かについて自分たちよりもよく知っている老人の足元に座るのである。
●歴史の再構成は、それ自体もっと広範な共同作業に基づく過程となり、そこでは専門家でない人々が決定的な役割を果たす。書くことと、書いたものをあらゆる種類の人々に提示することを中心することによって、歴史ははかりしれないものを得るのである。
●同時に、年老いた人々が特に恩恵を受ける。
●オーラルヒストリープロジェクトは、老人たちに新たな社会的接触をもたらすだけでなく、時には長く続く友情をもたらすこともある。あまりにも頻繁に無視され、経済的にも無力にされていても、彼らの人生を振る返り、若い世代に価値ある情報を伝えることによって、老人たちは尊厳と目的意識を獲得するのである。

脳(2))